研究課題/領域番号 |
24580061
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研究機関 | 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
清水 徳朗 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 果樹研究所カンキツ研究領域, 上席研究員 (90355404)
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キーワード | カンキツ / ウンシュウミカン / 突然変異 / 枝変わり / ゲノム配列 / 塩基配列多型 / SNP / INDEL |
研究概要 |
1.昨年度次世代DNAシーケンサで解読したウンシュウミカン4系統の全配列情報をカンキツの公開ゲノム参照配列(クレメンティン半数体またはスイートオレンジ)にマッピングして評価したところ、NGS解析から見いだされた多型をPCRで再検証すると期待された多型が再現されない場合が多く、その原因として別品種由来の参照配列を用いたために2品種の品種間差に由来する多型が誤判定の原因となっているものと推察された。そこで国立遺伝学研究所大量遺伝情報研究室、比較ゲノム解析研究室のご協力を得て、NGS解読配列情報の解析から9,317 scaffolds、全長340Mbpからなるウンシュウミカン”宮川早生”のドラフトゲノム配列を構築した。 2.構築したウンシュウミカンドラフト配列を参照配列としてウンシュウミカン系統のNGS配列をマッピングして多型を解析した結果、約90万個所でSNPが検出された(全ゲノムの約0.27%相当)。SNPの出現頻度は系統間で大きな違いはなく、塩基置換のTransition/Transversion(Ts/Tv)比はおよそ1.80前後であった。INDELはSNPのおよそ1/11となる約85,000個所で見いだされ、こちらもSNPと同様、系統間で多型頻度に大きな違いは認められなかったが、1~5bpの範囲で挿入または欠失した塩基ではAまたはTに富む配列で多型の出現頻度が高い傾向が認められた。 3.ヒュウガナツ2系統のNGS配列について同様にウンシュウミカン参照配列にマッピングして解析したところ、多型頻度自体はウンシュウミカンの2倍を超える頻度で見いだされたものの、系統間ではSNP、INDELともに頻度に大きな違いは認められず、またSNPのTs/Tv比は約1.88でウンシュウミカンの結果に近い値が示された。以上の結果から、ウンシュウミカンでは常に一定の割合でSNPまたはINDEL置換が起きており、塩基転位と塩基転換もカンキツ品種間でほぼ一定の割合であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していた高密度ゲノムアレイを利用した解析では多型の検出感度と高精度化が困難であったことから、近年低コスト化が著しく進んでいる高速DNAシーケンサを用いた解析に切り替えて研究を進めている。しかし研究開始時点で公開されていたクレメンティンの公開ゲノム配列クレメンティンとの品種間多型が解析の障害となったことから、本年度は参照配列としての利用を念頭に、ウンシュウミカンゲノムのドラフト配列の構築を進めた。この配列を変異系統間の多型検出に利用することで、突然変異に基づく多型を高精度で検出することが可能となった。カンキツではこれまでに2品種の全配列が公開されているがウンシュウミカンについてはまだ報告はなく、本研究で得られた成果はウンシュウミカンを含む、遺伝的背景の異なるさまざまなカンキツ品種を対象とした突然変異の発生機構解析にも大きく貢献するものである。 構築したウンシュウミカンのドラフト配列については遺伝子候補領域の推定とその機能注釈も平行して行い、約32,000の遺伝子候補領域を見いだした。これまでに検出された多型を対象にウンシュウミカンの推定遺伝子との対応付けを現在進めており、その結果をもとに遺伝子機能に及ぼす効果を推定することで、表現型との関連についても評価が可能な基盤が整備されてきた。今年度は比較的小規模な系統間で共通の多型に注目した解析を優先して実施したが、26年度は各系統に固有の多型の評価と解析を実施し、また中規模の多型の検出と解析にも取り組むことで、突然変異発生機構の推定に向けて着実に進展を図る予定である。なお、研究計画で予定していたウンシュウミカンの実生の養成と評価についてはすでに「青島温州」の交配種子についてDNAマーカー選抜を実施して30以上の珠心胚実生固体を獲得している。以上のように本研究課題では当初計画と同等かそれを上回る成果が得られてきている。
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今後の研究の推進方策 |
当初策定した計画のうち、24年度に一部修正した内容から大きな変更はなく、これまでに検出された多型の一部について実際に配列を再解読して確認を進め、NGS解析から推定された結果を確認する。ウンシュウミカンのドラフトゲノム配列については今後さらに解析を継続して高精度化とScaffoldの連結を行い、ウンシュウミカン突然変異系統の解析に反映させる。ウンシュウミカンゲノムのドラフト配列のこれまでの解析では約30%が反復配列と推定され、約20%はLTR型レトロトランスポゾンと推定された。レトロトランスポゾンの多くはすでに転移能を失ったものであると推定されたが、現在も転移能を有するものが存在する可能性もあり、それらが突然変異の発生に関わる可能性についても検証したい。また、ウンシュウミカン「青島温州」に由来する珠心胚実生を対象に、「青島温州」で検出された多型の後代への遺伝性を評価することで、もとの「青島温州」に見いだされる多型が珠心胚実生においても見いだされるかどうかを確認し、キメラ性の問題について考察する。全ゲノム配列の解読からは非常に多くの有益な情報が得られてきており、それらについてさらに多様な視点からの解析を継続することで研究目標の達成に向けて推進を図る。
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度はウンシュウミカンドラフト配列の解読に多くの時間を割くこととなった。その間、全ゲノム配列の解読から得られた多型の検証を一時的に停止していたためにその間に利用する予定であった予算執行の一部を次年度に繰り越すこととなり、次年度使用額が発生した。このように当初計画から若干のスケジュールの変更はあったものの、研究そのものは計画を提出した時点よりも多数の多型を見いだすことが可能となってきており、予算の範囲内でウンシュウミカンのドラフト配列を解読するなど課題の推進と予算の効率的利用の面で問題は無い。その要因としては全配列解読が非常に低コスト化していることが大きく貢献しており、今後もこの流れは変わることはなく、より積極的に全配列解読を実施することで当初計画した以上の多数の多型を網羅的に検索、特定し、その結果、研究課題の目標達成が可能になると期待される。 次年度はウンシュウミカン系統間の全配列解読から検出された多型を対象に、Sanger法で配列を再解読して確認するとともに、一部は半定量解析も実施することで多型の有無とコピー数の変動の2点について確認を行う。また、参照配列の高精度化を目的にウンシュウミカンの小規模なゲノム解読を実施する。次年度はそのためのプライマー合成とPCR試薬、消耗品費の購入経費ならびに配列解読の経費として当該助成金を使用する。
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