わが国の在来ブドウ品種‘甲州’は、白ワイン用ブドウとして重要な品種である。‘甲州’は東洋系のVitis viniferaとされていたが、異なる意見もあった。そこで本研究では‘甲州’の分類的位置づけを明らかにすることを目的に、高精度の推定が可能な一塩基多形(SNPs)解析を行った。その結果、‘甲州’はV. viniferaが70%強、東洋系野生種が30%弱の種間雑種であることが示唆された。また、‘甲州’は葉緑体DNAの部分シーケンスが野生型で、中国の野生ブドウ、V. davidiiに最も近いことから、母方の祖先にV. davidiiまたは近縁の野生種があることが明らかになった。 ‘甲州’とは別に、古くは聚楽ブドウ等の名前が記載されているが、現在はその存在が知られていない。しかし、古くから栽培されているが品種が不明のブドウや、‘聚楽’として伝わっているブドウがあるとの情報が得られた。そこで、本年度は関係者の協力を得て新葉を入手し、核DNAのSSR解析(8か所)と葉緑体DNAの部分シーケンス(4か所、約1960 bp)を行い、‘甲州’と比較した。その結果、熊本県天草市に明治時代から伝わるブドウAは‘甲州’と同じ結果を示した。京都府京丹波町に明治時代から栽培されているブドウBは‘聚楽’と呼ばれているが、アメリカ系の品種と推定された。また、京都市高台寺近くで栽培されているブドウCは、葉緑体DNAの部分シーケンスが‘甲州’と一致した。一方SSR解析の結果は、ブドウCは‘甲州’と1か所(VVMD5)で2塩基異なる長さを示すことを除くと、‘甲州’の実生と考えて矛盾のない結果を示した。 以上のように、本研究では‘甲州’の分類学的位置づけを解明するとともに、‘甲州’との関連が推定されたブドウとの関連の有無を明らかにすることができた。
|