研究課題/領域番号 |
24580064
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
近藤 秀樹 岡山大学, 資源植物科学研究所, 助教 (40263628)
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研究分担者 |
鈴木 信弘 岡山大学, 資源植物科学研究所, 教授 (70206514)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 非レトロRNAウイルス / 感染記録 / 化石配列 / 系統進化 / ゲノム / うどんこ病菌 / ダラースポット病菌 / モノネガウイルス |
研究概要 |
申請者らは、2011年に植物ゲノム上に古のウイルス感染記録(いわゆるウイルス化石配列)と考えられる非レトロRNAウイルス様配列 (NRVS)をはじめて発見した。そこで本研究では、植物ゲノム上で新規NRVSを探索すると共に、ウイルス媒介者が多数含まれる昆虫類や植物を取り巻く病原菌類のゲノムでもNRVSの探索を行った。 1. 新規に登録された植物ゲノムデータベースを検索したところ、既知のパルティテウイルスタイプ(PCLS)やバリコサウイルスタイプ(RNLS)の新たなNRVSを複数検出した。このうちバラ科(リンゴ、チュウゴクナシ、イチゴ)のPCLS7配列はゲノムの同一領域に座上していたことから、その挿入イベントは非常に古くこれら植物の分岐前に起こった可能性が示唆された。 2. 昆虫類ゲノムのデータベース検索では、プラス鎖RNAウイルス類似配列が複数発見された。興味深いことに、これらの配列は植物RNAウイルス(アルファウイルス様スーパーファミリー)の複製酵素と相同性が認められた。さらに、数種昆虫ではゲノムPCRでこれらのウイルス様配列の存在を確認することができた。 3. 菌類ゲノムのデータベース探索では,植物病原糸状菌であるうどんこ病菌(Erysiphe pisi)で非分節型のマイナス鎖RNAウイルス(モノネガウイルス)の複製酵素(L)に類似した配列が複数発見された。それら配列はゲノムPCRでうどんこ病菌のゲノムに存在する事が確認された。さらに、ダラースポット病菌(Sclerotinia homoeocarpa)では、転写物データベース中にL遺伝子全長域をカバーする8-10kbのコンティグ配列が見出された。これら菌類ゲノムと転写物の情報は、菌類で未発見であったマイナス鎖RNAウイルスの存在を強く示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
植物・昆虫類・菌類のゲノム上に新規の非レトロRNAウイルス様配列 (NRVS)を相次いで見出したことで、これら生物種における古のウイルス感染記録の一端を紐解くことに成功した。 1. 植物ではバラ科に共通のPCLS7などを見出したことで、今後その配列挿入年代の推定が可能になると期待される。 2. 昆虫類ゲノムに植物RNAウイルスの複製酵素類似配列が見出されたことは、植物および昆虫のウイルス起源を考える上で非常に興味深い発見である。 3. 植物病原糸状菌類にマイナス鎖RNAウイルスの感染記録と現代ウイルスの存在を示唆した。 特に、3の成果は当初の予想を超えた特筆すべき発見である。菌類ではじめてモノネガウイルス目と共通起源のウイルスが存在すれば、エボラウイルスや狂犬病ウイルスなどの多くのエマージェングウイルスを包含するモノネガウイルスの起源や進化を理解する上で非常に重要な知見となる。また本研究では、ウイルス感染記録(ウイルス化石)を用いる事でこれまで全く未知であった(存在が知られていない)新奇ウイルスを発見でき、ウイルス探索にウイルス化石という新しい探索ツールが利用できることを実証できたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の成果を受け、ウイルス様配列(NRVS)の分子系統学的な解析を進める。さらに、植物NRVSのmRNAレベルでの発現の検証やNRVS蛋白の特性解析を行う。また、菌類マイナス鎖RNAウイルスの存在を証明し、ウイルスの実態に迫る。 1. 植物や昆虫類ゲノム上のウイルス類似配列について,新規ゲノム情報を用いて更に検索を行う。さらに、NRVSと現代ウイルスを用い最尤法で分子系統解析を行う。 2. 植物NRVSのmRNAレベルでの発現を検証し(一部実施済み)、機能解析のターゲットになるNRVS配列の選定を行う。さらに、ウイルスベクターを用いNRVS mRNAをノックダウンできるか検討する。 3. 大腸菌蛋白質発現系で植物NRVSの組換え蛋白質を産生させ精製を行う。組換えNRVS蛋白質が得られた場合には、核酸結合能や自己形態形成の有無など特性解析を進め、ウイルス蛋白質との性状を比較する。 4. 宿主細胞で未知の逆転写酵素活性が認められるか判別するため、バリコサウイルスやラブドタイプウイルスを持続感染させる宿主植物系を選抜する。それらウイルス配列が感染細胞内でcDNA化するかをPCRで検証する。 5. マイナス鎖RNAウイルス様配列を見出した植物病原糸状菌類について、実際にモノネガウイルスが存在するか検索を進める。現存するモノネガウイルスを確認できた場合は、そのゲノム構造の全貌を明らかにするとともに、植物や動物のモノネガウイルスとの比較を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
「該当なし」
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