研究課題
OsRDR1のウイルス、細菌及び菌類の3種の異なるタイプの病原体に対する感染応答について解析を進めてきた。供試した材料は、イネレトロトランスポゾンのTos17挿入変異株、および、OsRDR1cDNAクローンを入手後、イネ発現ベクターに導入したプラスミドをアグロバクテリウムによりイネを形質転換して得られた過剰発現株である。これらのイネ個体を育成し、ウイルス感染にはCMVとイネえそモザイクウイルスを接種した。接種後経時的に全量RNAを抽出し、RT-PCRにより、ウイルスRNA量を測定した。その結果、野生株と比較し、OsRDR1変異株においては、両ウイルスとも蓄積量が有意に増大し、過剰発現株においては、低下するという結果を得た。また、細菌に対してはイネ白葉枯病菌を用いて、病徴の進展具合を調査した。その結果は、野生株における病徴と比較して、OsRDR1変異株においては、病斑のサイズが有意に大きくなり、過剰発現株については病斑のサイズが小さくなる結果を得た。さらに、病原菌としてイネいもち病菌を用いて、同様に病徴の進展程度を検討した。その結果、野生株における病徴と比較して、OsRDR1変異株においては、病斑のサイズが有意に大きく、過剰発現株に対しては細菌を同様に有意に小さく、抵抗性を示した。以上の結果は、OsRDR1は、ウイルスのみならず細菌や菌類に対しても積極的に防御に関与していることを示し、本遺伝子が関わるRNAサイレンシング機構はウイルスのみならず、細菌や菌類などに対する防御機構として存在することを明らかにできた。OsSGS3はOsRDR6を結合して作用することが知られており、OsSGS3変異株ならびに過剰発現株についてもOsRDR1と類似作用を示すデータが得られつつある。また、OsSGS3変異株においてはレトロエレメント由来のsiRNA蓄積に関与していることを見出した。
2: おおむね順調に進展している
OsRDR1の解析をTos17変異株ならびにcDNAの過剰発現株の両方を用いて解析を行った。ウイルスとしてCMVとRNMVの接種方法が異なる2種のウイルスに検定し、同じ結果を得た。また、細菌としてイネ白葉枯病細菌、菌類病としてイネいもち病菌という典型的がイネの重要病原体を用いて感染応答を検討した。いずれも、それぞれの抵抗性品種{あそみのり(白葉枯病)、戦捷(いもち病)}を用いて比較検討して、過剰発現株ではこれらの抵抗性品種とほぼ同等の抵抗性が得られた。これらは基礎的な観点のみならず実用上の観点からも重要な知見であると考えている。OsSGS3の解析についても、OsRDR1 と同様に、変異株と過剰発現株、さらにOsRDR1との2重突然変異株の3種類の株について解析を進めつつある。OsSGS3はOsRDR6に結合して作用すると考えられるので、上記の2重突然変異株においては、OsRDR1 とOsRDR6の両方の介在するサイレンシング経路が欠損していると予想され、予備的なこれまでの実験で期待通りのデータが得られつつある。また、OsSGS3変異株においては、レトロエレメント由来の小分子RNA蓄積への影響がみられるので、この知見はシロイヌナズナにおいては未報告であり、植物全体を通じて我々が最初の発見であると考えている。以上のような結果とそれらの意義から、今年度の達成度は順調に進展していると評価している。
OsRDR1以外にも、OsSGS3やOsRDR6に対する病原菌感染に対する防御応答反応の解析をさらに押し進める。SGS3はシロイヌナズナで初めて単離されたサイレンシング関与遺伝子で、植物に特有の遺伝子とされる。本研究においてSGS3 のイネホモログであるOsSGS3変異株及びOsRDR1との2重突然変異株において、OsRDR1解析と同様に、ウイルス、細菌、菌類病感染に対する防御応答に対する役割について検討する。さらに、レトロエレメント由来の小分子RNA 蓄積への影響が確認された結果を得ているので、その機構について検討を行う。また、OsRDR6は、別名SHL1あるいはROL遺伝子とも呼ばれ、これまでに形態形成に関係した実験の報告が見られる。これらの変異株では、シュート形成が異常になり、植物体が十分に生育しないなどのため、感染応答の解析実験には不向きとされてきた。しかしながら、ROL変異株については、1アミノ酸の変異のため、その影響は強くなく、植物体自体は生育することが可能である。ホモ個体は不稔であるが、ヘテロ個体は稔性があり、ホモ個体を選抜して。実験に供試することが可能である。従って、ROL変異株を供試して、ウイルス、細菌、菌類の病原体感染に対する防御応答の解析を行っていく。以上、イネをめぐるサイレンシング関与遺伝子の防御応答解析の研究により、より一層、サイレンシング機構の幅広い役割を明らかにしていくものと考えている。
実験植物の育成する条件について、少し検討する余地があり、最適な条件を見つけ、なお稔性を挙げるべく施肥や灌水等にも十分な注意を怠りなく配慮していく必要があった。このため次年度に一部の実験が繰り越さざるを得なくなった。
年度当初に担当者と十分な実験計画を立て、予算の使用計画を効率的かつ綿密に練った上で、当該実験を注意深く、念入りに実施してゆくことを考慮する。
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