研究課題/領域番号 |
24580070
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
大里 修一 明治大学, 農学部, 講師 (30533228)
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キーワード | イネいもち病菌 / 相同組換え / 準有性生殖 / 病原性変異 |
研究概要 |
イネいもち病菌の変異機構として「相同組換え」に注目し,非病原性遺伝子の変異や準有性生殖による遺伝子交換および伝達に相同組換えが関与するかどうかについての検証を行っている. 1) 相同組換え検出系を利用した準有性生殖による組換え検出 平成24年度は相同組換えを簡便に検出できる実験系を構築して,相同組換えの検出に適した諸条件について明らかにしたので,その成果について論文にまとめ,報告した(J. Gen. Plant Pathol. 79:422-430).今年度はそれらの条件に基づき設計したTG受容体配列とRS供与体配列をそれぞれ導入した菌株を複数系統準備して,それぞれ対峙培養または液体混合培養を行い相同組換えによるYFP蛍光の出現を調査した.その結果,3系統の組合せにおいてYFP蛍光が確認されたことから,RS供与体配列が一方の株に伝達され,同時にTG受容体配列への準有性生殖的組換えが生じることを確認することができた. 2) Avr組換え検出系を用いた非病原性遺伝子の変異 平成24年度にはイネいもち病菌の非病原性遺伝子として知られているAvr-pita遺伝子配列を受容体配列として,対応する供与体配列を人工DNA配列(Avr供与体配列)として構築し,イネいもち病菌 北-1株に導入した.この供与体配列は点変異導入により不活性化したAvr-pita配列内に,解析用の制限酵素認識配列が付加してある.今年度は北-1菌の内生Avr-pitaと新たにゲノムへ挿入したAvr供与体配列間で相同組換えが生じたかどうかについて,非親和性品種ヤシロモチへの接種試験により検定した.接種葉上の病斑の有無による病原性の確認と病斑部より単菌糸または単胞子分離により取得した菌のゲノムを用いた遺伝子解析によって,元々ゲノム上に存在していた非病原性遺伝子に変異が生じたことを証明することに成功した.これらの成果は論文にまとめ報告した(J. Gen. Plant Pathol. 80:153-157).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
イネいもち病菌にTG受容体配列またはRS供与体配列を導入した複数の菌株を作出した.両菌株は3日間の液体混合培養後に,準有性生殖的組換えが生じた菌株を優先的に生育させるためにブラストサイジンを添加して,さらに3日間培養した.その後,ブラストサイジン含有プレートに塗布して薬剤耐性およびYFP蛍光を発する菌株を探索した.現在,取得したYFP蛍光クローンより菌糸分離を行い,遺伝的解析を進めている.2種類のDNA配列による相同組換え検出マーカーを用いた本実験において,YFP蛍光が観察されなかった場合に備えて,高頻度に相同組換えを誘導するための諸条件の決定と技術に関する準備を進めてきた.その中で糸状菌用I-Sce Iによる二本鎖切断導入系を用いた実験は,当初の予想を上回る成果,特にいもち病菌特有の相同組換え機構の一端を実証することができたことから,当該部分に関する知見を中心に論文としてまとめた(FEMS Microbiol. Lett. 352:221-229).さらに,任意の配列に対して二本鎖切断を導入するために遺伝子ターゲティングで用いられるようになってきたTALENをイネいもち病菌へ適応可能とするシステムの最適化を行った.構築したTALENシステムを用いた二本鎖切断導入技術は,高効率の遺伝子破壊法としても有用であることが明かとなり,今後の研究展開にも極めて有益である. 次年度計画である「相同組換え関連因子および組換えメディエーターの探索」に関して今年度後半から前倒しで実験を開始した.具体的にはDNA修復・組換え機構に関与するDNAヘリカーゼに着目し,北-1株ゲノムより候補遺伝子と相互作用が予想されるカウンターパート遺伝子の単離をあわせて行った.
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今後の研究の推進方策 |
相同組換え検出系を利用することで,今年度の実験で捉えることができた準有性生殖に関する知見は当初研究計画に従い,さらにDNAレベルでの詳細な解析を進めていく.一方,Avr組換え検出系を用い,準有性的組換えにより病原性変異が生じるかどうかを検証する実験に関しては,平成24年および25年度の実験結果から難易度が高く,時間も必要であることが明らかとなってきた.そこで研究計画を変更し,本件は別の研究課題として取り組むべきと判断した.代わって新たな課題として,本研究の中から派生的に生じたイネいもち病菌における二本鎖切断導入系および遺伝子ターゲティング技術に関する研究は非常に興味深く,今後大きな成果となることが予想されることから積極的に研究を展開することとした. 次年度計画である「相同組換え関連因子および組換えメディエーターの探索」に関する課題については,研究計画当時よりも具体的に候補遺伝子の絞り込みを行うことができた.現在,すでに標的とする酵素遺伝子を破壊した場合,菌糸形態や病原性などの評価を行っており,次年度は破壊株を用いて相同組換え様式がどのように変化するかの検証を進めていく予定である.
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