研究課題
我が国のナス栽培において、ヒラナス台木は青枯病抵抗性台木として広く利用されていたが、これに病原性を示す青枯病菌III群菌の出現により抵抗性が打破された。我々は、昨年度の解析で、ヒラナスに感染できないII群菌(RS1000株)ではRip36エフェクターが非病原力因子(Avr)としてヒラナスに特異的に認識されていることを見出した。また、青枯病菌III群菌ではrip36遺伝子が消失していることを明らかにした。ヒラナスに続いてナス台木として導入されたトルバム・ビガーは、青枯病菌II群菌およびIII群菌に抵抗性を示したが、ごく短期間でこれを発病させる青枯病菌IV群菌が出現した。今年度はトルバム・ビガーの青枯病抵抗性を詳細に評価した。その結果、トルバム・ビガーもヒラナスと同様、Rip36を認識して強い抵抗反応を誘導することを見出した。トルバム・ビガーはRip36を有するII群菌には強度抵抗性を示したが、Rip36を欠くIII群菌には強い抵抗性を示さず、高濃度の病原菌接種で発病する場合も認められた。PCR法による解析から、トルバム・ビガーに強い病原性を示す青枯病菌IV群菌ではrip36遺伝子が消失していることが明らかになった。IV群菌はIII群菌から派生した可能性が極めて高いと考えられる。次年度は、III群菌とIV群菌のゲノム比較を行い、IV群菌の出現メカニズムに迫りたい。更に、本年度はナス科植物が有するRip36認識メカニズムに関する解析も行った。Rip36エフェクターは金属(Zn)プロテアーゼモチーフを有しているが、本モチーフへの変異導入により、植物に対する非病原力(Avr)活性(HR誘導活性)が失われた。植物はRip36エフェクターのプロテアーゼ活性を何らかの方法で感知して抵抗反応を起動していると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
昨年度に研究を開始するにあたり、当初予定していた青枯病菌のII群菌およびIV群菌の解析から、II群菌(ヒラナス、トルバムに非病原性)、III群菌(ヒラナスに病原性、トルバムに非病原性)、IV群菌(ヒラナス、トルバムに病原性)という宿主域の異なる3菌株を解析の対象とした。これが功を奏し、ヒラナスとトルバム・ビガーが一部重複した病原菌認識機構を有していることが明らかとなった。また、ヒラナスに抵抗性認識されない青枯病菌III群菌ではトルバム・ビガーによる抵抗性認識が弱くなっており、III群菌のさらなる変異によりトルバム・ビガーの抵抗性が打破されやすい状態となっていたことも示された。植物によるRip36エフェクターの認識機構に関する解析も順調に進んでおり、Rip36エフェクター機能と抵抗性認識の間に相関があることも示されつつある。Rip36を認識する抵抗性遺伝子はナス属野生種に広く分布している可能性があり、育種利用への波及効果も予想され、研究は当初の目的に対して順調に進んでいると考えられる。
今後は、トルバム・ビガー台木に対して強い病原性を示す青枯IV群菌がどのようにしてIII群菌から生まれたのか、その原因となったゲノム上の遺伝子変異を明らかにする。当初の計画にあるゲノム置換実験だけでなく、両菌株の全ゲノム比較解析なども視野に入れ、解析を進める予定である。植物のRip36認識メカニズムについては、Rip36の植物側の標的を明らかにすることで手がかりを得たいと考え、Rip36を発現する形質転換植物の解析を行う予定である。
ごく少額の残金が生じたため、次年度の助成金と合わせて使用することとした。研究の遂行上に何ら支障はないとの判断による。ごく少額であるため、特記すべき計画はない。
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Molecular Plant Pathology
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10.1111/mpp.12079
Journal of General Plant Pathology
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