害虫管理や天敵昆虫の保護利用において圃場周辺環境から圃場への昆虫の移入は古くから重要視されてきた。近年の地理情報システム(GIS)や統計的手法の発展により、これまで未知であった広域スケールからみた害虫と天敵の移動パターン推定を試みるため、本研究ではこれらの技術を駆使し、害虫が多く生息し畑作物害虫やその天敵の潜在的な供給源や受け皿になる牧草地と畑作物圃場間の害虫と天敵の広域的・季節的な移動パターンを評価した。 この結果、害虫対に関して、アカヒゲホソミドリカスミカメはコムギから牧草地へ、マキバカスミカメは牧草地から畑作物へ、ヨトウガとモンキチョウは畑作物から牧草地へ移動することが推定された。これらの結果と各害虫種の生活環などの生物学的な特性から、牧草地は害虫の供給源(マキバカスミカメ)や越冬場所のような受け皿(アカヒゲホソミドリカスミカメ、ヨトウガ、およびモンキチョウ)にり、害虫種や時期によりその役割が異なることが示唆された。 天敵類に関しては、牧草地に生息するエンドウヒゲナガアブラムシ(以下、アブラムシ)の捕食寄生性天敵(一次寄生蜂、高次寄生蜂)の寄生率に周辺の非農耕地の存在が及ぼす影響を評価した結果、一次寄生蜂はAphidius erviと Praon barbatumが、高次寄生蜂は Asaphes suspensusとDendrocerus carpenteriが採集された。一番草(6月中旬)において、A. erviやA. suspensusは牧草地周辺の非農耕地(草地、森林、雑草地)の割合、P. barbatumは畦畔長の増加とともに寄生率が増加したが、D. carpenteri は周辺環境の影響が認められなかった。三番草(10月上旬)においてはP. barbatumのみ寄生率の増加に、非農耕地が影響した。寄生蜂は寄主の体内で越冬するため、作物圃場への移入を開始する初期の餌資源の供給源や越冬場所として非農耕地の利用が示唆された。
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