研究課題/領域番号 |
24580082
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
荒木 朋洋 東海大学, 農学部, 教授 (20193071)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | プロテオーム / 糸状菌 / スフィンゴシン |
研究概要 |
昆虫病原性糸状菌Nomuraea rileyiは鱗翅目昆虫の害虫管理法として期待されている.本菌胞子は寄主昆虫表皮抽出物を添加すると発芽促進することから,発芽促進因子はすでにD-erythro-C14-Sphingosine (スフィンゴシン) により発芽が促進されることを明らかにしている.そこで,本菌の発芽メカニズムを明らかにする目的で,二次元電気泳動を用いたディファレンシャルディスプレイを行い,観察された特異的スポットに対し解析を行った.タンパク質の抽出はフェノール法を用い,得られたタンパク質を2次元電気泳動に供した.その結果,それぞれ約600個のタンパク質スポットが得られた.発芽菌糸とスフィンゴシン誘導発芽菌糸の泳動像を比較した結果,スフィンゴシン誘導発芽菌糸の泳動像に21個の特異的スポットが観察された.すなわち,これらのタンパク質が,スフィンゴシン誘導発芽に特異的に関与していると推定された.そこで,スフィンゴシン誘導で特異的に発現するタンパク質について解析を行った.すなわち,これらのスポットについてトリプシンを用いてインゲル消化を行った.得られた消化物はZip-Tip処理後,ナノスプレーでQ-TOF (Quadrupole-Time Of Flight) 型質量分析機を用い解析を行った.得られた二価または三価イオンに対しPMF (Peptide Mass fingerprint) 解析を行った.その結果,主に微生物由来のタンパク質が同定され,これらのタンパク質がスフィンゴシン誘導発芽菌糸に特異的に発現していることが明らかとなった.また,MS/MS解析を行い,得られた配列に対しBLAST解析を行った.その結果,微生物由来のPermeaseなどが同定された.しかし,ほとんどのタンパク質が機能未知であったため,今後さらに詳しく構造解析を行う予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
糸状菌は極めて固い胞子を形成し,また菌糸もタンパク質含有量が低い.したがって,通常のタンパク質抽出方法ではタンパク質試料の調製が困難であるため,まず胞子など菌体からのタンパク質抽出条件の検討を行った.すなわち,物理的方法および化学的方法(界面活性剤キットによる抽出)等を組み合わせ,効果的なタンパク質抽出条件を確立するため,検討を行った.その結果,通常の方法ではタンパク質の抽出効率が極めて低く,十分なタンパク質濃度が得られなかった.そこで,植物組織抽出に用いられる,フェノール法を適用した.その結果,2次元電気泳動に十分なタンパク質を抽出することに成功した.その後,2 次元電気泳動によりタンパク質のプロファイリングを行い,胞子および発芽始動期における特異的発現タンパク質をディファレンシャルディスプレイにより検出を行った.胞子と発芽菌糸の泳動像を比較した結果,発芽菌糸の泳動像に8個の特異的スポットが観察された.続いて発芽菌糸とスフィンゴシン誘導発芽菌糸の泳動像を比較した結果,スフィンゴシン誘導発芽菌糸の泳動像に21個の特異的スポットが観察された.すなわち,これらのタンパク質が,発芽及びスフィンゴシン誘導発芽に特異的に関与していると推定された.そこで,まずスフィンゴシン誘導で特異的に発現するタンパク質について解析を行った.当初の予定では,MALDI-TOF-MS を用い,インゲル消化したトリプシンペプチドについて2 段階の化学修飾を行い,ゲノム未知タンパク質の配列分析を行う予定であったが,機器の故障のため,ESI-Q-TOFを用い,MS/MS解析によるデノボシークエンスを行った.現在,MALDI-TOF-MS を用いた解析も並行して実施中である.
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究により,効果的に糸状菌よりタンパク質を抽出し,2次元電気泳動によるディファレンシャルディスプレイを用いた特異的発現タンパク質の検出が可能となった.また,特異的タンパク質については,ESI-Q-TOFとMALDI-TOF-MSの2機種を用いた異なる機構を利用した質量分析によるタンパク質同定を行った.現在,ESI-Q-TOFのデータ解析を行っているが,ゲノム未知生物であるため,TOF-MSデータを用いたPMF (Peptide Mass fingerprint) 解析では,十分で情報が得られなかったが,MS/MS解析によるデノボシークエンス法により数種の機能タンパク質が同定された.現在,当研究室で開発した2段階化学修飾法を用いたMALDI-TOF-MSによるデノボシークエンス法を行い,特異的タンパク質の同定を進めている.一方,「緑きょう病菌」が特異的にC14-Sph により発芽促進するメカニズムを検証するため, C14-Sphに非感受性の昆虫病原性糸状菌とのプロテオーム比較を行う.すなわち,促進活性により発芽した「緑きょう病菌」と,通常の発芽を行った非感受性の昆虫病原性糸状菌のプロテオームを比較し,ディファレンシャルディスプレイにより両者の差を検出し,特異的タンパク質スポットについて,デノボシークエンス手法により,タンパク質の同定を行う.また,「緑きょう病菌」は特異的にC14-Sph により発芽促進することから, C14-Sph に対する特異レセプターを有すると推定される.したがって,「緑きょう病菌」胞子よりC14-Sph に対するレセプターの分離とその同定を試みる.すなわち,界面活性剤により膜結合と思われるレセプターの抽出調製を試み,アフィニティーなどにより分離した特異レセプターについて,膜タンパク質プロテオーム解析手法を用いてタンパク質同定を試みる.
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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