本研究は、近年わが国に侵入し分布拡大した外来昆虫であるブタクサハムシを材料として、気候や寄主植物のフェノロジーに対する適応と関係の深い光周性に着目し、光周性の経年変化および地理的変異を調査して、適応・進化の過程を解明するとともに、量的遺伝解析手法を用いて、急速な適応を可能にした遺伝的機構を解明することを目的とする。 24~25年度には、全国各地で採集した本種系統の光周性の地理的変異を実験し、採集地の緯度と同一日長における休眠率に正の相関があることを見出した。26年度には、さらに採集地点を増やして実験し、緯度、標高、寄主植物が休眠率および臨界日長に有意な影響を及ぼすこと、しかし苫小牧系統はこの関係から有意に外れることを明らかにした。 急速な適応をもたらす遺伝的機構を解明するため、24~25年度につくば個体群の3系統を用いて、日長13時間の条件下で休眠および非休眠の両方向に人為淘汰をかける実験を行った結果、両方向とも休眠率は5~8世代で100%(休眠淘汰)または0%(非休眠淘汰)に達した。この結果を用いて推定した光周性の遺伝率は0.208~0.856となり、この特性に大きな遺伝変異があることが示された。26年度には、人為淘汰によって選抜した休眠系統と非休眠系統について、卵・幼虫・蛹期間の生存率、発育期間、体サイズ、産卵数などの生活史特性を比較し、両系統間でこれらの特性が有意に異ならないことを明らかにした。本虫が各地の環境に適応しているか調べるため、主に26年度に野外調査を行い、休眠時期と寄主植物の利用可能期間が実験結果と一致することを確認した。 以上の結果から、本虫はわが国に侵入後短期間で、侵入地の環境に適応するように光周性が変化したこと、この急速な進化が起こったのは、光周性に大きな遺伝変異があり、その特性に自然淘汰が強く作用したことによると考えられる。
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