バイオディーゼルや有用脂肪酸の原料となる植物の貯蔵脂質(トリアシルグリセロール、TAG)は、通常、種子に多く含まれており、葉、茎、根にはほとんど含まれていない。そのため、種子と比べてバイオマスが大きい葉や根で油脂を高蓄積できれば、新しい油脂原材料としての実用化が期待できる。研究代表者らはこれまでに、植物にとって必須である栄養素の1つであるリンが欠乏した生育条件下では、通常微量である油脂が顕著に蓄積すること、さらにデンプンを蓄積しないシロイヌナズナ変異体ではこの油脂蓄積がより顕著であることを発見した。本研究では、特に植物の根においてデンプン量と油脂量を巧妙に制御しているしくみを解明し、種子ではなくデンプンの主要貯蔵組織であるイモにおける油脂の高蓄積を目指している。平成24年度は、リン欠乏時の根で油脂(TAG)を蓄積するシロイヌナズナ形質転換体の作製をおこなった。具体的には、リン欠乏時に葉と根で発現量が上昇する遺伝子のプロモーターの制御下で、TAG生合成の3つの主要酵素遺伝子をそれぞれ発現させ、リン欠乏時の根でTAGを高蓄積する可能性のある形質転換体の作製を行った。そのうち、1種類の形質転換体については単離が終了し、油脂含量を調べた結果、少なくとも葉の油脂含量が増加していることを確認した。平成25年度は、引き続き、他の2遺伝子をそれぞれ導入した形質転換体の単離を行い、それらの葉における発現量や油脂含量を調べたその結果、さらにもう1種類の形質転換体において、葉における油脂含量の増加を確認することができた。平成26年度は、得られた6種類の形質転換体と野生株をリン欠乏条件下で生育し、それらの根の油脂含量の比較を行った。その結果、葉の場合とは異なり、3種類の酵素遺伝子のうち、ある1種類を導入した際のみ根において油脂の高蓄積が起こることが明らかになった。
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