研究課題/領域番号 |
24580092
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
三枝 正彦 豊橋技術科学大学, 先端農業・バイオリサーチセンター, 特任教授 (10005655)
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研究分担者 |
熊崎 忠 豊橋技術科学大学, 先端農業・バイオリサーチセンター, 特任助教 (90531541)
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キーワード | 肥料 / 硝酸態窒素 / 養液組成 / リン酸集積 / センサー / 炭酸ガス施肥 / 光合成環境 / LED |
研究概要 |
施設園芸の養液栽培で広く使われる、園試処方、大塚化学処方は、Hoagland and Arnon (1933)の処方を基本としており、窒素とCa濃度が高く、窒素の9割余が硝酸態である。このような高濃度、高硝酸割合のため、低照度下の植物工場野菜では極めて高濃度の硝酸が蓄積されたものと推察された。そこで、本年度は培養液のアンモニア割合を高めるために、pH自動調整機を導入し、水耕液の窒素濃度と窒素形態が、レタスの生育および硝酸含量に及ぼす影響を検討した。その結果、高濃度、硝酸主体の園試処方に対して、窒素濃度を1/5にした1/5硝安区のレタスの生体重は、ほぼ同等であった。これに対して1/10窒素濃度の塩安区は13% 程度生体重が劣ったが、植物体は健全な生育を示した。またレタスの硝酸態含量は園試処方が6450ppmに対して、1/5硝安区は1375ppm、1/10塩安区は923ppmと著しく低減した。一方、施設土壌の養分実態解明については、ピーマンと小松 菜について検討した。その結果、連作期間が長いピーマン圃場では過剰な硝酸、リン酸、塩基の集積と微量要素の不足が明らかとなった。さらに施設土壌におけるリン酸過剰集積改善法を、今後大量に発生が予測される浄水ケーキ(ポリシリカ鉄)を用いて検討した。その結果、ポリシリカ鉄はリン酸過剰集土壌の有効態リン酸集積を低減させるとともに、可給態鉄含量を大幅に向上させ、また可給態の銅、亜鉛含量も改善した。光合成環境の改善については炭酸ガス施肥とLEDの株間補光効果を光合成測定などで検討し、いずれも顕著な効果があることを明らかにした。さらに、施設園芸が盛んなオランダ国と韓国の現状を視察し、最先端施設園芸では集約的な土耕栽培に加えて、養液栽培や水耕栽培が進行しており、リン酸集積、硝酸集積、炭酸ガス施用などの問題点が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度に引き続き、東三河地域を中心とする愛知県の施設園芸土壌の養分状態について詳細に検討し、その全容が明らかになり、特にリン酸の過剰集積が問題であり、植物のリン酸過剰障害の発生の他に、間接的にマンガンや鉄、銅、亜鉛欠乏にも関係していることが明らかとなった。また、これら土壌では過剰な塩類集積や硝酸集積も見られ、抜本的な対策の必要であることを明らかにした。特に重要な問題であるリン酸の過剰集積については、今後大量に発生が予測される浄水ケーキ(ポリシリカ鉄)の施用試験を行い、過剰な有効態リン酸集積を低減させるとともに、可給態鉄含量を大幅に向上させ、また可給態の銅、亜鉛含量も改善することを明らかにした。また土耕栽培野菜の硝酸含量の低減には酢酸の葉面散布が有効であることも明らかにした。一方、最先端施設園芸である人工光型植物工場野菜では、ヨーロッパの規制値を超える硝酸の集積が明らかとなった。またその原因としては低照度下で高濃度かつ硝酸主体の養液で栽培されたためと推察された。そこで培養液のアンモニア割合を高めるために、pH自動調整機を導入し、水耕液の窒素濃度と窒素形態が、レタスの生育および硝酸含量の低減に及ぼす影響を詳細に検討したところ、生育を低下させることなく、硝酸態窒素含量を1000ppm前後まで著しく低減できることを明らかにした。また先進的なオランダと発展著しい韓国の施設園芸を現地調査し、集約的土耕栽培や養液栽培、水耕栽培の進展が著しく、従来の土地利用型農業におけるN-P-K主体の施肥管理の在り方を、施設園芸ではN-K-Caに変更する必要性を明らかにした。施設園芸における光合成環境の改善については炭酸ガスとLEDの効果を明らかにした。また重窒素栽培試験については栽培装置の容量の関係で次年度に持ち越されたが、全体的に見れば研究目標はほぼ順調に達成していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度までに、人工光型植物工場栽培レタスの硝酸含量低減法として、従来使われてきた園試処方の培養液の全窒素含量を1/5とし、アンモニア態窒素の割合を半分以上に高めることを提案した。レタスは比較的アンモニア態窒素に対して耐性があるといわれるので、この硝酸含量低減法の普遍性を明らかにするために、今年度はホウレンソウや食用ビート、サニーレタスなどの他の葉菜類についてこの方法が適用できるか否かを検討する。またレタスの重窒素試験は小規模な栽培装置が無く、繰り越してきたが、次年度は硝酸態窒素やアンモニア態窒素の利用効率について明らかにする。施設園芸土壌におけるリン酸過剰状態の軽減法として浄水ケーキであるポリシリカ鉄の有効性を土壌分析結果から明らかにしたが、本年度はポット試験で小松菜やホウレンソウを密植栽培し、植物体の観察、および成分分析によって、リン酸過剰によって引き起こされる可能性のあるマンガンや、亜鉛、鉄などの微量要素の存在状態を明らかにする。植物工場における土壌肥料的光合成環境の改善としては、従来、天然供給に頼っていた炭酸ガス施肥の必要性と光環境の質的量的改善が重要である。そこで次年度は生産現場で炭酸ガス施肥量とレタスやトマトの反応を明らかにすると共に、LEDを用いた栽培試験を継続し、経済的観点を考慮した人工光型、および太陽光型植物での炭酸ガスの適正施肥管理法とLED導入法を明らかにする。また、本年度は最終年度でもあるので、これまで行ってきた施設園芸土壌における養分動態とその改善法、および植物工場における硝酸低減法と光合成環境の改善法を実験結果とともに、文献的検索結果も考慮してマニュアル化する。そして施設園芸における三要素は土地利用型土壌のN-P-Kに対して、施設園芸ではN-K-Caであり、新たに炭酸ガス施肥やLED導入の重要性を提言する。
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