研究課題
ALMT1はアルミニウム活性化型リンゴ酸輸送体であり、コムギのアルミニウム耐性遺伝子である。また、その相同遺伝子を含むALMTファミリーは植物にのみ存在し、陰イオン輸送体として機能することで、アルミニウム耐性の他に、気孔開閉や液胞への陰イオン蓄積などの植物の多様な生理機能に関与する。本課題では、昨年までにトマト(MicroTom)からALMT相同遺伝子の発現解析から、果実で発現している3つのALMT遺伝子に着目し、これらの遺伝子をクローニングした。そして、アフリカツメガエル卵母細胞を用いた電気生理学的手法でリンゴ酸輸送機能を解析した。本年度は、MicroTomでのALMT過剰発現体、およびプロモーター::GUS形質転換体の解析を行った。まず、液胞局在クレードに区分され、果実の成熟過程で恒常的に発現している2つのうち、電気生理学的解析によりリンゴ酸輸送の確認できた1つのALMT遺伝子の過剰発現体を作成し、果実および葉におけるリンゴ酸含量を測定した。その結果、果実では過剰発現体と野生株に大きな差はみられなかったが、葉において過剰発現体で高いリンゴ酸の蓄積がみられた。今後、さらに植物の生育条件を検討し、果実のリンゴ酸含量の変化を解析する。次に、これら2つのALMT遺伝子のプロモーター::GUSによる発現組織を解析した。その結果、一つは果実の萼に近い果肉の中軸とそこに近い維管束に強く発現していた。それに対して、もう一方のALMTは果実全体(果皮と中軸)の特に維管束で高い発現を示した。2つのALMT遺伝子は、果実での組織発現が一部異なるが、共に維管束での発現が観察されたことから、葉から果実へのリンゴ酸や陰イオンの転流に関与する可能性がある。今後電気生理によるイオン輸送解析の結果とあわせて、これらALMTの機能を明らかにする。
2: おおむね順調に進展している
すでに、トマトの果実で発現するALMT輸送体クローニングし、電気生理学的解析によって、リンゴ酸輸送機能を明らかにしている。また、形質転換トマト(過剰発現体)の作製と生理機能解析も、ほぼ予定通りに進んでいる。ただし、いくつかの形質転換体(発現抑制)の作成と解析が遅れているため、今後解析を進めて行く予定である。また、最初のALMTの過剰発現系統で、果実のリンゴ酸の蓄積の変化が小さかったことから、もう一つ別のALMT過剰発現体の解析も進めている。
これまでに、液胞クレードの2つのトマトALMTについて形質転換体の作出とリンゴ酸含量の変化について、生理的な解析を進めてきた。もう一つ、遺伝子発現様式が先の2つと異なり、別のクレードに分類される機能未同定のALMTについても、さらに電気生理学的に透過する陰イオン種の解析を進める。また、このALMT遺伝子の過剰発現トマト形質転換体も作成している。このALMTは果実の未熟段階で高い発現を示すことから、果実熟成段階のリンゴ酸蓄積に関与する可能性がある。また、このALMTは電気生理学的な機能解析で、特に高いリンゴ酸輸送機能を示したことから、形質転換植物の果実のリンゴ酸含量に差がでることが予想される。さらに、これらのALMTsの発現制御によって、リンゴ酸以外の有機酸や、それらの炭素源となる糖含量が変化するか、GC-MSによる解析によって明らかにしたいと考えている。それにより今後、これらALMTsの違いによって、果実のリンゴ酸含量や植物バイオマス増大にどのように応用できるかを研究する。
人件費は予定通りに執行した。その他、消耗品費について今年度は形質転換植物の解析が主であったため、予定よりも使用試薬が少なかった。本研究課題推進のための人件費、および遺伝子機能解析、電気生理解析の消耗品に用いる予定である。
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