研究課題/領域番号 |
24580095
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
西山 雅也 長崎大学, その他の研究科, 准教授 (50263801)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 土壌学 / 微生物 / 地球化学 / 炭素循環 / 二酸化炭素排出削減 |
研究概要 |
本研究は、非晶質無機物質が、土壌微生物を介した有機物代謝に与える影響を明らかにすることを目的とする。本年は、1:供試微生物を土壌から分離し、2:分離株への無機物質付着処理方法を検討することによって、本研究での実験方法を確立した後に、3:無機物質付着により微生物が被る影響に関する予備的実験を行う計画とした。あわせて4:関連情報の収集も予定した。 1:菌株分離:一般従属栄養微生物を黄色土より分離した。一部の分離株は16Sリボソーム遺伝子塩基配列を解析し、Pseudomonas属細菌と推定した。 2(1):pH変化に伴う溶存無機物質の析出と菌体への付着:菌体をpH6緩衝溶液に懸濁させ、塩化アルミニウム水溶液ならびに硫酸第一鉄アンモニウム水溶液を滴下した。観察の結果、菌体はアルミ、鉄の析出物と接触しているが付着には至らないと判断した。(2)Eh変化に伴う溶存鉄の析出と菌体への付着:水田土壌を還元状態とし、得られる土壌水を第一鉄溶解液として供試した。これを菌懸濁液に加えて第二鉄を析出させたところ、一部の菌株では、菌体が析出した鉄凝集体に取り込まれたと考えられた。他の菌株では凝集体の形成は観察されなかった。 3:前項で凝集体の形成が考えられた菌株について、密閉容器中、YG液体培地で培養し、二酸化炭素発生量を測定した。有意差は認められないものの、3反復の試験により、培養1.5-2日における二酸化炭素発生量が対照よりも低い値を示した。凝集体の形成を認めなかった菌株のデヒドロゲナーゼ活性を測定したところ、一部の菌株で第一鉄により活性が低下した。第二鉄として析出させた後に菌体と接触させた場合にも活性が低下する菌株が見られた。以上の結果は、土壌中でしばしば生じる溶存態第一鉄の酸化析出によって、微生物の種類によっては活性が低下することを示しており、今後の詳細な解析の必要性を示す点で重要と思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究の目的である「~影響について解明する」は達成されていない。また、本年度の実施計画に限定した場合も、無機物質との相互作用に関係すると予想される供試菌株表面の特徴付け、無機物質・菌体間の関係(付着状況)の詳細な観察と評価、ガス分析計を用いた微生物活性・有機物代謝の実験系の確立において、十分な進展状況とは言いがたい。ただし、本年度に示した「非晶質無機物質が土壌微生物を介した有機物代謝に影響を与える場合がある」という結果は、今後の研究の遂行を意義づけるものとして評価できると思われる。これらの理由により、上の自己点検評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
1:土壌中での溶解、析出、微生物との相互作用の程度が著しいと考えられる鉄をまず中心に、微生物活性・有機物代謝に与える影響を解析する。この際、供試微生物の菌株数を増やし、菌株の特徴的性質を重点的に調べ、無機物質による影響との関連性の解析を試みる。 2:鉄以外の無機元素について、菌体への付着、影響評価に関する実験条件の検討を引き続きおこなう。アルミニウム、マンガン、ケイ素について検討する。 3:無機物処理微生物の生残性に関する実験を開始する。得られる結果から、土壌中での微生物バイオマス態炭素の代謝に及ぼす無機物の影響について解析を試みる。 4:ガス分析計を活用した実験系の確立を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費は、消耗品として、無機物質の定量、微生物の培養、生化学試験、代謝活性試験に使用する試薬類、ならびに、土壌および微生物の培養、分析に用いるガラス器具、プラスチック器具、ピペット器具などの器具類を予定している。また、研究成果発表の学会参加のための旅費と投稿のためのその他の費用を計画している。
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