研究実績の概要 |
本研究は、鉄、アルミニウム、マンガンなどを含む土壌中の無機物質が、微生物による有機物分解と有機物を介した土壌中における炭素代謝に与える影響を明らかにすることを目的としている。本年は、土壌中の鉄が微生物の活動や微生物を介した土壌中の炭素代謝に及ぼす影響について、鉄溶解処理による細菌生菌数を調べることにより検討した。 まず、溶解処理液として、クエン酸、EDTA、マロン酸、グリコール酸、HIDS の水溶液を、濃度 10 mM, 50 mM, または 100 mM、pH 6.5 にて調製し、土壌(水田)に対して25倍量(v/w)加え、最長120分の振盪処理を行い、抽出された鉄の量を測定した。得られた結果を基に、鉄溶解処理条件を検討し、濃度 50 mM、振盪時間 5~60分とした。 上記の条件で鉄溶解処理を行った土壌について、希釈平板培養法(R2A培地)により細菌数を計数した。その結果、脱イオン水で振盪処理した土壌と比べて、EDTA処理により最大10%程度、HIDS処理により最大30%程度、細菌コロニー計数値が増加した。この結果から、EDTA処理ならびにHIDS処理では、土壌中の細菌表面に付着していた鉄が溶解除去され、培地上で増殖可能な細菌の数が増えた可能性が考えられた。すなわち、土壌中の細菌は、その表面を鉄で覆われるあるいは鉄が付着した状態で存在することにより、生きているが増殖できない状態にある可能性を示しているものと考えられた。既往の研究では、非晶質鉄と土壌有機物の量的相関が報告されているが、本研究で示された増殖できない微生物が、蓄積する有機物となるのかもしれない。また、土壌中における、生きているが培養できない微生物(viable but non-culturable; VBNC)の一部は、このような理由によるものかもしれない。
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