日本の土壌に多く蓄積されているエステル硫酸は、アルミニウム腐植複合体に取り込まれ安定して存在していると仮説を立てている。土壌培養、比重分画、XAFS測定、SEM-EDS測定を組み合わせた総合的な分析知見から、この仮説を検証することを本研究の目的とした。全国から採取した森林の表層土壌を280日間、25度と35度で培養し、有機物の分解を促した。培養試料について比重分画により軽比重画分(比重1.8未満)、重比重画分(比重1.8以下)に分画した。その土を凍結乾燥、微粉砕化し、XAFS測定、SEM-EDS測定を行った。その結果、培養前の土壌と比較し培養処理を経た土壌では、軽比重画分・重比重画分の両方においてエステル硫酸とみられるピークラインのわずかな伸長がXAFSスペクトルに認められたが、画分による量の序列は明瞭ではなかった。軽/重画分によるエステル硫酸の含有率の差異を確認するためには、今後のLinear-combination fitting (LCF)解析が必要である。SEM-EDXの元素マッピング解析では、イオウはアルミニウムよりむしろ、鉄との親和性が微弱な傾向として観察された。エステル硫酸とアルミニウム遊離酸化物(あるいは鉄遊離酸化物)との親和性を測るためには、エステル硫酸の保持に有効なアルミニウムや鉄の酸化物の形態を把握していく必要があることが示された。またSEM-EDXの点分析による半定量的解析では、培養と比重分画を経てなお土壌粒子1粒1粒の外観に多様性が認められ、またイオウ濃度・アルミニウム濃度は幅広く変動した。従って上記仮説を立証するためには、ヘテロな土壌粒子のどこかにエステル硫酸が偏在している可能性をも検討しなければならない事が明らかになった。
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