窒素施肥は、牧草の生産性維持のため必要不可欠だが、温室効果ガスである一酸化二窒素(N2O)の発生量を増加させる側面がある。本研究は、堆肥連用と適切な減肥の組み合わせでN2O発生量が抑制されるメカニズムの解明を目的とした。堆肥連用と適切な減肥を組み合わせて管理した草地(堆肥化肥区)、化学肥料のみの連用で管理した草地(化学肥料区)の土壌を採取し、脱窒酵素活性(DEA)をアセチレン(C2H2)阻害法で測定した。また、C2H2を添加しない条件でも同様の測定を行い、脱窒におけるN2O/N2O+N2生成比率を調べた。さらに、硝酸カリウムおよびグルコースの添加条件を変えて同様の測定を行い、採取土壌中の脱窒基質濃度の影響を調べた。DEAは、堆肥化肥区が化学肥料区より高く、堆肥連用は、特に表層土壌(0-5 cm)のDEAを高めた。また、土壌pH (H2O)は、堆肥化肥区では草地表層ほど高く、逆に化学肥料区では草地表層ほど低く、堆肥および硫安の表面散布の影響を受けた。N2O/N2+N2O生成比率は、堆肥化肥区が化学肥料区より低く、堆肥連用によるpH (H2O)の上昇が、N2O/N2+N2O生成比率を低下させた。N2O/N2+N2O生成比率は、pH (H2O)と負相関を有した。堆肥連用を継続すると、pH (H2O)の処理間差は拡大し、堆肥化肥区におけるN2O/N2+N2O生成比率は、さらに低下した。硝酸カリウムとグルコースの両者とも無添加で測定した際のN2O生成量は、C2H2を添加した場合、堆肥化肥区が化学肥料区より多かったが、C2H2を添加しない場合、堆肥化肥区と化学肥料区で同等であった。以上の結果から、草地における堆肥散布はDEAを高めるが、同時に土壌pH (H2O)を高め、N2O/N2+N2O生成比率を抑制すること、さらに、堆肥連用に伴う適切な減肥は、草地から発生するN2Oを抑制するもうひとつの要因であることが明らかとなった。この研究成果は、草地における積極的な堆肥の利用が、N2O発生量を助長しないメカニズムを解明した点で重要である。
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