研究課題/領域番号 |
24580104
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
渡邉 剛志 新潟大学, 自然科学系, 教授 (10201203)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | キチナーゼ / 結晶性キチン / 芳香族アミノ酸残基 / 高速原子間力顕微鏡 |
研究概要 |
本研究は、キチナーゼによる結晶性キチン分解機構解明を最終的な目的として、①結晶性キチン分解における芳香族アミノ酸残基の機能を、部位特異的変異と高速原子間力顕微鏡によるキチナーゼの可視化よって解明し、さらに、②キチナーゼによるα-キチン分解機構解明の端緒を開くことを目的している。S. marcescens の キチナーゼA(SeChiA)分子表面には3つの、キチナーゼB(SeChiB)分子表面には4つの直線上に並んだ芳香族アミノ酸残基がある。また、活性クレフト内部にも結晶性キチン分解に必須な芳香族アミノ酸残基がある。これらの残基は、“結晶性キチン表面への結合”、“活性クレフトへのキチン鎖の導入”、“結晶性キチン表面における酵素の移動”、”クレフト内部のキチン鎖の移動”に関与しているものと予想される。平成24年度の研究によって、SeChiB表面の4つの芳香族アミノ酸残基のTrp(W)をTyr(Y)に、YをWに置換した6つの変異SeChiB遺伝子の構築し、大腸菌による生産とカラムクロマトグラフィーによる精製に成功した。それらの変異ChiBを用いて、キチンに対する結合活性や分解活性を分析した結果、結合活性は WをYに変えた変異によって低下し、YをWに変えた変異によって上昇することがわかった。また、分解活性はすべての変異によって低下し、特にY240の変異によって最も大きく低下した。次に、野生型および変異キチナーゼの結晶性基質上の動態を高速原子間力顕微鏡により観測したところ、野生型はキチン鎖上を移動しプロセッシブに分解していたが、Y240Wはキチン鎖上をほとんど移動しないことがわかった。これらのことから、4つの芳香族アミノ酸残基は基質結合および分解に重要であり、特に触媒クレフトに一番近いY240が、キチン鎖を結晶表面から引き剥がしクレフト内部に導く上で非常に残基であると推察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の研究計画では、SeChiBの分子表面の芳香族アミノ酸残基の機能解明に関しては、変異体の構築を終了し、変異体の基本的な生化学的性質を調べる段階までを想定していた。しかし、予想以上に実験が順調に進行し、6つの変異SeChiB遺伝子の構築、大腸菌での発現およびカラムクロマトグラフィーによる精製を比較的短期間で終えることが出来た。そして、各種の基質に対する結合活性や分解活性の解析も終了し、そればかりでなく平成25年度に予定していた高速原子間力顕微鏡を用いた結晶性キチン表面での野生型および変異SeChiBの可視化と挙動の観察に成功し、芳香族アミノ酸残基の機能に関する重要な情報を得ることが出来た。このようにSeChiBに関しては、研究計画を遥かに上回る速度で実験が進行し、予想以上の成果を得ることが出来た。 一方、SeChiAの活性クレフト内部の芳香族アミノ酸残基を変異させる実験は予定通りに進めることができなかった。すなわち、結晶性キチン分解に重要な役割を果たしていると考えられる芳香族アミノ酸残基の機能を解明するために、活性クレフト内部のサブサイト-5位のTyr(Y)170と-3位のTrp(W)167の変異体を作成し、その影響を調べる実験である。これらのアミノ酸残基のアラニン置換が結晶性キチン分解活性を選択的に低下させることがわかっている。このSeChiAの活性クレフト内部の芳香族アミノ酸残基に関する実験は、現在変異遺伝子構築の途中である。 このように、SeChiBで予想を遥かに上回る早さで実験が進行し非常に重要な成果が得られた一方で、SeChiAの活性クレフト内部の芳香族アミノ酸残基に関する実験が予定より遅れたため、研究全体としてみると「おおむね順調に進んでいる」との判断がもっとも適当であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度に予想以上に進展したSeChiBを対象とした実験に関しては、結晶性β-キチン微小繊維上に見られるキチナーゼ分子の数と、変異による微小繊維上での移動速度の変化を定量的に評価することを試みる。そして、分解活性や結合活性などに関する酵素化学的な解析の結果と、高速原子間力顕微鏡により観察されるキチナーゼ分子数や移動速度の変化を、ChiB上の変異の位置と種類に基づいて総合的に考察し、個々の芳香族アミノ酸残基の機能に関するさらに詳細な情報を得る予定である。特に重要なのは、移動速度と分解活性の相関と、結合活性が与える移動速度および分解活性への影響である。それによって、分子表面の芳香族アミノ酸残基の機能、特にこれらの残基が結晶性キチン表面におけるキチナーゼ分子の移動においても必要なのかどうかを解明したい。 一方、予定通りに研究が進められなかったSeChiAに関しては、活性クレフト内部の芳香族アミノ酸残基の変異体であるY170W, Y170F, Y170A, W167Y, W167F, W167Aの構築と、大腸菌での生産と精製を加速し、平成25年度前半に終了できるよう全力をあげる。そして、高速原子間力顕微鏡による結晶性キチン表面における挙動を観察し、「変異による結晶性β-キチン分解活性の低下」と「微小繊維上の移動速度」の相関を解析する。これによって、結晶性β-キチン分解機構のモデルの検証が可能となる。 また、平成25年度以降に予定していたα-キチンの分解機構の解明を目指した研究に関しては、この研究の展開に必須な協力者である東京大学農学生命科学研究科の和田准教授と、これまで研究計画に関する議論を重ねてきた。海洋藻類Phaeocystis 由来の高結晶性α-キチン微小繊維を入手できる見通しがついたため、平成25年度半ばから本格的にこの研究を開始する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度に比較的高額の機器である高速冷却遠心機を購入することが出来たので、平成25年度以降は科学研究費補助金のほとんどを、一般試薬・培地・プラスチック器具などの消耗品と旅費に充てる方針である。高速原子間力顕微鏡を用いて行う実験は、連携研究者の五十嵐圭日子准教授と連携して、金沢大学の安藤教授の研究室のご協力を得て実施している。初年度は、そのための旅費を基盤研究経費や民間からの助成金でまかなった。平成25年度以降は科学研究費補助金の一部を、高速原子間力顕微鏡による測定のための旅費にも充てる予定である。
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