研究課題/領域番号 |
24580105
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
池田 正人 信州大学, 農学部, 教授 (00377649)
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研究分担者 |
竹野 誠記 信州大学, 農学部, 助教 (30422702)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | コリネバクテリウム・グルタミクム / 還元力 / NADPH / GapN / rho |
研究概要 |
ミュータンス菌(う蝕菌)が解糖系で還元力NADPHを産生する特異なレドックス代謝系をもつことに着目し、それをコリネ菌内で再構築する育種を試みてきた。具体的には、自前のNAD型GapA代えて、ミュータンス菌のNADP型GapNを発現するコリネ菌の育種を行ってきた。このGapN発現株は残念ながらグルコースで良好に生育できなかったが、同株から生育が部分的に改善されたサプレッサー株が取得でき、内1株が有するサプレッサー変異が転写終結因子rhoのミスセンス変異(R696C)であること、さらに、同サプレッサー株がリジン生産宿主として高いポテンシャルを有していることまで報告している。 今回、rho変異株のDNAアレイ解析により、同変異がピルビン酸周りの代謝に影響を与えていることを示唆する結果を得た。一方、増殖特性の異なる別のサプレッサー株の全ゲノム解析を行い、そのサプレッサー変異がリポアミドデヒドロゲナーゼ遺伝子lpd(Cgl0688)のミスセンス変異(A223T)であることを明らかにした。lpd遺伝子はピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体の1コンポーネントであることから、ピルビン酸代謝に影響を与えていると考えられる点で、rho変異のDNAアレイ解析結果と符合する。 以上、明らかにした2種のサプレッサー変異を併せ持つGapN株を育種した結果、生育への相加効果は認められたものの、僅かであった。従って、各々の変異の生育改善効果は、ピルビン酸周りの代謝を改善するという共通のメカニズムによるものと推察された。その仕組みの詳細は不明ながら、GapN株ではピルビン酸周りの代謝バランスが崩れていることが示唆され、それを改善する変異がGapN株の生育改善に繋がっているものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究実施計画では以下の2点を掲げた。両項目とも計画通りに実施して期待値に近い結果を得ることができたため。 1.GapN発現株の生育をサポートする複数のサプレッサー変異の特定と集約 2.サプレッサー変異の代謝生理への影響解析
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今後の研究の推進方策 |
【GapA&GapN両用型宿主の開発】現在までに育種しているGapN発現株はNADHとATPの産生ステップをNADPHの産生ステップに置換したため、理論上、還元力の面で有利であるが、エネルギーの面で不利になる。もし、エネルギーをより多く要する生育フェーズではGapA依存、還元力をより多く要する生産フェーズではGapN依存となる菌株を育種できれば、生育と生産により適した代謝系になるはずである。そこで、そのような高性能な菌株を目指して、GapN発現株に条件発現型のGapA遺伝子を導入してGapN&GapA両用型宿主を育種する。そのための方法は以下の2点である。 1)ts発現型GapAプラスミド(複製が温度感受性)を有するGapN発現株の育種: 28℃で培養してGapAを発現させつつ生育させた後、33℃以上にシフトしてGapAプラスミドを脱落させ、以降の物質生産はGapN依存的に行うプロセスを開発する。 2)イノシトール誘導型GapA遺伝子をゲノムに組み込んだGapN発現株の育種: コリネ菌はグルコース共存下でもイノシトールが存在すると、イノシトール代謝系遺伝子を誘導発現する。この知見に基づき、イノシトール誘導型プロモーターの支配下にGapA遺伝子を配してGapN発現株のゲノムに組み込む。イノシトールの初発添加量に応じてGapA発現期間を制御するプロセスを開発する。コリネはグルコースとイノシトールを同時に代謝するという特性をもつので、イノシトールを少量添加したグルコース培養系で、イノシトールが残存している間だけGapAを作動させることができる点が本プロセスの特徴である。
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次年度の研究費の使用計画 |
本申請研究では微生物実験と分子生物学的実験が主体となる。そのための研究設備は揃っている。また、全ゲノム解析やDNAアレイ実験等、コストがかかる解析は今年度までに一通り終えている。従って、次年度の研究費は、消耗品を主体とする実験経費に充てる予定である。
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