発光ダイオードが持つ光源特性を利用して、ヒラタケ糸の生長に及ぼす単色可視光の光質と光強度の影響について研究したところ、菌糸に青色光刺激を与えると(中心発光波長:470nm,光量子束密度:105μmol/m2/s)、菌糸生長が完全に抑制される現象を見出した。 青色光刺激によるヒラタケ菌糸の生長抑制現象を詳細に検討するため,青色光刺激を与えた菌糸の一次代謝産物を網羅的に解析した結果、鳥インフルエンザ特効薬として知られるタミフルの製造原料となるシキミ酸が、暗所培養菌糸と比較して飛躍的に増加していることを見出した。しかし緑色光、赤色光、遠赤色光を菌糸に照射してもシキミ酸は全く増加しなかった。 シキミ酸は、解糖系で生合成されるホスホエノルールピルビン酸(PEP)と、ペントースリン酸経路で生合成されるエリトロース-4-リン酸(E4P)との縮合反応による7‐ホスホ-2-デヒドロ-3-デオキシアラビノヘプトン酸(DAHP)を経由して生合成されることから、ヒラタケ菌糸への青色光刺激によるシキミ酸の蓄積は、解糖系の律速反応酵素である6-ホスホフルクトキナーゼ(PFK)、ペントースリン酸経路の律速反応酵素であるグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ(G6DP)、及びシキミ酸経路の律速反応酵素であるDAHP合成酵素の各発現量が増加したことに起因するのではないかと推定した。そこでこれら3つの酵素をコードする遺伝子の発現量と、各遺伝子配列を基に作成した一次抗体を用いて酵素の発現量を解析したところ、青色光刺激による遺伝子発現量と酵素発現量は、いずれも時系列的に増加することを見出した。 本成果は、青色光刺激により糸状菌から有用物質を生産する新規技術としても大変重要であることを示すものであり、今後の応用が期待される。
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