研究課題/領域番号 |
24580107
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
下坂 誠 信州大学, 繊維学部, 教授 (90187477)
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研究分担者 |
田口 悟朗 信州大学, 繊維学部, 准教授 (70252070)
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キーワード | キチナーゼ / キチン / Nーアセチルグルコサミン / キチン結合ドメイン / 糖質加水分解酵素 / 遺伝子破壊 |
研究概要 |
1.C. shinanonsnsis SAY3株の全ゲノムシークエンス(総塩基長4.16 Mbp)を決定し、オープンリーディングフレーム(ORF)検索と相同性検索の結果、合計3278個のORFを見出した。既に単離した15遺伝子(chiA-chiO)のほかに、新たに34遺伝子(chi1-chi34)を検出した。SAY3株は、49個ものキチン分解酵素遺伝子を有したことから、キチンの分解利用に特化した細菌と考えられた。新たな遺伝子の中には、機能未知タンパク質をコードするものが複数あり、新規なキチン分解酵素が含まれることが期待される。 2.グラム陰性広宿主域ベクターpMo130を用いて、SAY3株目的遺伝子の上流域と下流域を挿入した組換えプラスミドを作成し、これを大腸菌から接合伝達でSAY3株に導入することに成功した。本プラスミドが、ゲノム上の目的遺伝子部位に相同組換えを起こすことによって、目的遺伝子を完全に破壊できることを確認した。試みにchiF遺伝子破壊株を作成したが、キチン培地における増殖能、培養上清中のキチン分解活性は親株と変わらず、ChiFの機能解明には至らなかった。 3.エキソ型キチン分解酵素であるN-acetylglucosaminidase (GlcNAcase)をコードする遺伝子は、SAY3株ゲノム上に唯一chiIが見つかった。上記の手法を用いてchiI破壊株を構築したところ、キチン培地における増殖能は親株と変わらなかった。chiI破壊株の細胞質には親株に比べて2%程度の残存GlcNAcase活性が検出されたことから、第二のエキソ型酵素の存在が予見された。本酵素を部分精製しアミノ酸配列を決定したところchi12にコードされるタンパク質であり、GlcNAcase活性をもつ新たなタイプの酵素であることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SAY3株の全ゲノム配列を網羅的に解析した結果、新たに34個のキチン分解酵素関連遺伝子を検出した。この中には新規配列を有する機能未知タンパク質をコードするものが多数含まれる。今後、これらの遺伝子の機能を調査することで、SAY3株の強力なキチン分解系の全容を解明することが可能である。特に鍵となる酵素を明らかにすることで、従来行われてきた酵素法によるキチン分解を大きく効率化させることが期待できる。 また、SAY3株の遺伝子破壊技術を確立できたことにより、今後、機能未知の遺伝子も含めて、各タンパク質の生理的機能をより明確に把握できるようになった。例えば、前述の通り、第2のエキソ型酵素の存在が確認されたことで、SAY3株のキチン分解代謝における役割が明確になった。この知見を利用すれば、既報の新規キチン分解酵素ChiGが示すN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)生成能を代謝面から評価することが可能になる。さらにChiGへの変異導入によってGlcNAc生成能を高めることにより、有用性の高い酵素の作出が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
1.新たに見出したキチン分解酵素遺伝子について、大腸菌を宿主に発現させ組換え酵素の性質を調べる。これまでに約半数の遺伝子の解析を終えた結果、キチンを酸化分解する酵素、広い基質特異性を示す酵素、新規配列からなる加水分解酵素をコードする興味ある遺伝子が見つかっている。これらの中から酵素法によるキチン分解を促進する効果があるものを選び出し、GlcNAcおよびそのオリゴ糖生産への方策を探る。 2.2つのエキソ型分解酵素(chiI, chi12)の二重遺伝子破壊株を作成する。GlcNAc2量体を単量体へ分解する活性が大幅に低下するため、二重破壊株のキチン培地における増殖速度は大きく低下することが予想される。このとき、新規酵素ChiGが示すGlcNAc2量体分解活性によりわずかながらGlcNAcが供給されると考えられる。したがって、二重破壊株よりキチン培地にて増殖可能な変異株を選抜することにより、GlcNAc2量体分解活性が上昇したChiG変異体を取得可能と考える。本変異体ChiGは一段階の反応で、効率よくキチンからGlcNAcを生成することができ、応用面での価値は非常に高い。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の見込みよりゲノム配列の解析作業に時間がかかり、その分、新たなキチン分解酵素遺伝子の発現と組換え酵素の調査が遅れたため次年度使用額が生じた。 新たなキチン分解酵素遺伝子の発現および調査を続行する。それとともに組換えタンパク質の大量生産を目指して新たな発現ベクター宿主系を用いる計画である。そのため、平成26年度の物品費で、Brevibacillus属細菌発現システムをはじめとしたタンパク質発現キットの購入費に充てる。
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