枯草菌 3610株は、サリチル酸メチルに応答してポリグルタミン酸からなる莢膜を形成する。野生株とポリグルタミン生産能を欠損したpgsC欠損株をサリチル酸メチル存在下で培養し、抗菌物質であるサリチル酸に晒したところ、野生株は曝露時間とともに、生菌数が徐々に減少するのに対し、pgsC 欠損株は暴露後5分以内に生菌は見られなくなった。また、蛍光タンパク質mCherry や蛍光物質フルオレセイン存在下で顕微鏡観察したところ、野生株では、細胞の周囲にそれらの蛍光物質の侵入が抑制された侵入阻止領域が見られたのに対し、pgsC欠損株では阻止領域は見られなかった。これらのことから、ポリグルタミン酸の莢膜は、抗菌物質に対する物理的なバリアーとして機能することが明らかになった。 3610株を植物病原性のフサリウム菌と共培養したところ、サリチル酸メチル存在時にのみ3610株のコロニーの周囲にフサリウム菌の生育阻止円がみられた。また、3610株が生産するフサリウム菌に対して有効な抗菌物質は、フェンジシンであること、サリチル酸メチルによるフェンジシン生産誘導は、サーファクチン生産の抑制を介して起こることが明らかになった。さらに、雑草の根圏より単離したバシラス属細菌の多くが抗菌活性を示し、いくつかの菌株は3610株よりも高い活性を示すことを見出した。それらは枯草菌や近縁のBacillus amyloliquefaciens、枯草菌とは系統的に離れたBrevibacillus brevis であった。これらのことから、サリチル酸メチルを介した抗菌物質の生産誘導は天然の根圏においても保存されている可能性が示された。これらのことから、根圏に生息する枯草菌などのバシラス属細菌の一部は、サリチル酸メチルを介して宿主植物の危機を感知し、抗菌物質を生産して植物病原菌を抑制している可能性が考えられた。
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