環境汚染物質であるポリ塩化ビフェニル(PCB)分解菌Rhodococcus jostii RHA1のPCB分解機構の完全解明を目標に研究をおこなっている。本菌のPCB分解遺伝子群の転写はビフェニル存在下で活性化されるが、申請者は、分解の中間代謝産物である安息香酸が同時に存在すると、分解遺伝子群の転写活性化が抑制されることを見出した。そこで、本研究では、この新規転写抑制機構の全容を解明する。 これまでに、抑制に関与する物質は代謝産物であるカテコールであること、catA、bphS1、またはbphT1遺伝子を高発現させると、抑制の解除が見られることが明らかとなった。本年度は、転写制御に関与している可能性がある遺伝子をゲノム情報から探索し、その転写量を逆転写-定量PCR法を用いて解析した。また、それらをRHA1株中で高発現させてビフェニル分解遺伝子の転写に変化をもたらすか観察した。さらに、ビフェニル分解の下流経路を担う安息香酸分解遺伝子群の転写制御についても解析を行った。 二成分制御系の調節に関与する遺伝子の候補として脱リン酸酵素と相同性を示すro03605、および他の細菌でカタボライト抑制に関与しているCrpタンパク質遺伝子と相同性を示すro04321を選定し、ro03605の転写量をビフェニルおよび安息香酸存在下で調べた。その結果、本遺伝子の転写量に特に変化は見られなかったまた、両遺伝子をRHA1株中で高発現させてもビフェニル分解遺伝子の転写活性化パターンに変化は見られなかった。安息香酸分解遺伝子の転写制御については、分解遺伝子群の上流に存在するAraCファミリーの転写制御因子によって制御されていると考えられてきたが、その破壊株を作製したところ野生株と同様の性質を示したため、他の遺伝子産物によって制御されているか、同じ働きをする遺伝子が別の場所に存在すると考えられる。
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