研究課題/領域番号 |
24580129
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
古川 壮一 日本大学, 生物資源科学部, 准教授 (40339289)
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研究分担者 |
森永 康 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (10459919)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | バイオフィルム / 複合系 / 酵母 / 乳酸菌 / 酢酸菌 |
研究概要 |
本研究では、乳酸菌、酵母及び酢酸菌の複合バイオフィルム形成機構解明とその形成制御技術の確立を目指し、複合バイオフィルムを利用することによる物質生産システム構築に向けた基礎的検討を行った。 乳酸菌(L. plantarum ML11-11)と酵母(出芽酵母)の複合バイオフィルムに関する検討については、L. plantarum ML11-11の野生株及び非凝集変異株を用いて、表層タンパクの比較プロテオーム解析を行った結果、変異株にみられないタンパクの中で、酵母表層マンナンに結合する可能性が推測されるものが見出された。加えて、L. plantarum ML11-11に同株と同等もしくはそれ以上の複合バイオフィルム形成能を有するL. plantarum HM23及びHP9を加え、3株のゲノムシークエンスを行った。その結果、L. plantarum ML11-11、HM23及びHP9両株は何れも、L. plantarumのtype strainであるWCSF1に基本的には類似したゲノム構造を有していたが、一方で3菌株に共通してWCSF1が保有していない特異的な遺伝子がみいだされ、これが酵母表層マンナンに結合するタンパク質をコードしている可能性が推測された。 また、乳酸菌-酵母複合バイオフィルムによる物質生産に関する研究を進め、当該バイオフィルムを用いることにより、回分培養のみならず、連続的にもアルコールを生産可能であること、及び、当該培養系は、高い雑菌排除能を有することを明らかにすることができた。また、乳酸菌、酵母及び酢酸菌(Acetobacter pasteurianus)の複合バイオフィルムについては、3菌株の共培養により、酢酸の生産が有意に上昇することが明らかになった。このことは、酢酸発酵を考える上で重要な知見であると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
乳酸菌(L. plantarum ML11-11)と酵母(出芽酵母)の複合バイオフィルムに関する検討については、ML11-11の野生株及び非凝集変異株を用いて比較プロテオーム解析を行った。その結果、変異株にみられないタンパクの中で、酵母表層マンナンに結合する可能性が推測されるものが見出された。加えて、ML11-11と、同株と同程度の複合バイオフィルム形成能を有するL. plantarum HM23及びHP9の3株のゲノムシークエンスを行った結果、3株は何れも、同種のtype strainであるWCSF1が保有していない特異的な遺伝子を保有しており、この遺伝子は酵母表層マンナンに結合する可能性のあるタンパク質の配列を有していた。また、PCR実験により当該候補タンパク質をコードする配列が3菌株のゲノム上に存在することが確認された。これらの結果は、当該遺伝子のクローニングには至っていないものの、乳酸菌表層の因子同定についての達成度はある程度高いと考えている。 乳酸菌と酵母の複合バイオフィルム形成制御技術の開発に関しては、物質生産に関する研究を進め、当該バイオフィルムを用いることにより、回分培養のみならず、連続的にもアルコールを生産可能であること、及び、当該実験系は、高い雑菌排除能を有することを明らかにすることができた。本成果は、物質生産技術の実用化という最終的な目的を考えた際には、達成度はある程度高いと考えている。 乳酸菌、酵母及び酢酸菌(Acetobacter pasteurianus)の複合バイオフィルムについては、3菌株の共培養により、酢酸の生産が有意に上昇することが明らかになった。このことは、酢酸発酵を考える上で重要な知見であると考えられた。本成果も、結果的には発酵機構の解明と物質生産技術の実用化とう最終的な目的を考えた際には、達成度はある程度高いのではないかと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
乳酸菌と酵母の複合バイオフィルム形成機構解明とその制御技術の開発については、引き続き、当該複合バイオフィルムの形成に必要な乳酸菌表層因子の同定とクローニングを進める。これまでの検討より、大体その因子について予想が立てられたと考えられるため、今後は当該遺伝子の乳酸菌用ベクターへのクローニングと他の株での発現を目指す。なお、新規なLactobacillusの遺伝子工学には難しい点が多いようであり、ある程度難航が予想されるが、その際には、大腸菌や他の遺伝子工学が容易な乳酸菌株を用いる等、他の方法も検討したいと考えている。また、高い複合バイオフィルム形成能を有するL. plantarum ML11-11、HM23及びHP9の3株のゲノムシークエンスデータの解析を更に進め、これら3株の共通性と他の非凝集性株との違いについて検討を行いたい。 乳酸菌と酵母の複合バイオフィルム形成制御技術の開発に関しては、バイオマスへの利用を視野に各種担体を用いて検討を行うと共に、効率的な回分及び連続発酵系を構築することを目指す。併せて、その高い雑菌排除能のメカニズムも明らかにすべく研究を進めたいと考えている。 乳酸菌、酵母及び酢酸菌の複合バイオフィルムについては、3菌株の共培養により、酢酸の生産が有意に上昇することのメカニズムを明らかにすべく研究を進めたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度以降は、メカニズムの解明に関する研究が多くなるため、遺伝子工学実験関連の試薬に関する費用が必要になると予想している。また、これまで同様、微生物の培養関連の培地等の試薬に関する費用も同様に必要であると考えている。加えて、プロテオーム解析やメタボローム解析、場合によってはトランスクリプトーム解析に関する費用も必要になる可能性がある。なお、研究成果を海外の学会で発表する費用も必要になるものと考えている。
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