研究課題/領域番号 |
24580129
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
古川 壮一 日本大学, 生物資源科学部, 准教授 (40339289)
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研究分担者 |
森永 康 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (10459919)
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キーワード | バイオフィルム / 複合系 / 酵母 / 乳酸菌 / 酢酸菌 |
研究概要 |
まず、かねてより出芽酵母への接着因子であると考えていた多糖分解酵素遺伝子をL. plantarum ML11-11よりクローニングして、ML11-11の非共凝集変異株に導入したが、共凝集性が回復しなかった。一方、非共凝集変異株の表層タンパクを抽出、定量した結果、野生株より顕著に少ないことが判明した。これらの結果から、当該変異株はタンパク輸送系に変異が生じた結果多糖分解酵素タンパクが細胞表層に輸送されなかった可能性があると考えられる。さらに、上記非共凝集変異株の表層タンパクをSDS-PAGEにより分画し、野生株に比較して発現が減っているタンパクを質量分析解析により解析した。その結果、代謝などに関与する複数の細胞内タンパクが同定され、これらのタンパクが出芽酵母との接着に関与する可能性があると示唆された。 乳酸菌-酵母複合バイオフィルム(BF)による物質生産に関しては、セルロース、ガラス、ポリスチレン、ゼオライトビーズ担体を用いた反復回分式アルコール発酵を行ったが、セルロースビーズ担体が発酵能及びBF菌体の保持に最も優れていることが確認された。また、稲わらを担体とした実験も行った結果、稲わらも担体として用いることができ、さらにセルラーゼを用いることによって、BFを形成させた稲わらをセルラーゼ分解しつつエタノール発酵を行えるとの感触を得ることができた。 乳酸菌、酵母及び酢酸菌の複合BFについては、3菌株の共培養による発酵について、本年度は更に簡易な6穴プレート系でも再現性を得ることができた。さらに、共培養系では酢酸菌のBF形成が増加するが、乳酸やアルコールを添加した場合に、代謝などに関与する幾つかのタンパクの発現が変化していることが質量分析解析で明らかになった。このことから、乳酸菌や酵母との共培養は酢酸菌の代謝に影響を及ぼしていること、及び、これらのタンパクのBF形成への関与が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、L. plantarum ML11-11の非共凝集変異株に、かねてより出芽酵母への接着因子であると考えていた多糖分解酵素遺伝子を導入したものの、共凝集性が回復しなかった。我々は、このことの理由として、当該タンパクが細胞表層に輸送されていないのではないかと考えている。従って、当該多糖分解酵素については、現在も出芽酵母への接着因子である可能性もあると考えており、研究を継続したい。なお、これまで遺伝子工学系が開発されていなかったL. plantarum ML11-11の系において、当該遺伝子をグローニングして非共凝集変異株に導入できたことは、複合BF形成機構解明に寄与できる成果であると考えている。 また、上記非共凝集変異株の表層タンパクの中から、野生株に比較して発現が減っているタンパクを質量分析により解析した結果、代謝などに関与する複数の細胞内タンパクであることが確認された。乳酸菌表層にある細胞内タンパクが腸管などへの接着に関与していることは報告されているため、ML11-11においても、上記タンパクが酵母との接着に関与する可能性は否定できず、今後研究を進めたいと考えている。本件も重要な成果であると考えている。 次に、乳酸菌-酵母複合BFによる物質生産に関して、セルロースビーズ担体が優れた担体であることや稲わら担体も使用可能であることが示された。これらの知見は、複合BFによる物質生産の実用化を進める上で重要な知見と考えている。 加えて、乳酸菌、酵母及び酢酸菌の複合BF発酵系を、簡易かつ安定な6穴プレート系で検討可能な系を確立できたことは、同発酵機構を今後検討する上で重要な進展であった。さらに、乳酸やアルコールを添加した場合、酢酸菌にて、代謝などに関与する幾つかのタンパクの発現が変化していることを確認することができたが、この知見は3菌種共培養系における物質生産を考える上で極めて重要である。
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今後の研究の推進方策 |
乳酸菌と酵母の複合BF形成機構解明については、タンパク質の質量分析を用いたタンパク解析は継続して行いたい。加えて、トランスポゾンライブラリーのスクリーニング等、遺伝学的な解析も行う予定である。また、引き続き当該複合BFの形成に必要な乳酸菌表層因子の同定とクローニングについても進めたい。なお、予想していた多糖分解酵素についても検討を継続したい。また、本年度見出された細胞内因子についても検討を継続して行いたい。なお、新規乳酸菌の遺伝子工学系の確立は容易ではなく、引き続き難航が予想されるが、その際には、既に遺伝子工学系が確立されている既知の乳酸菌株を用いる等、他の方法も検討したいと考えている。 乳酸菌と酵母の複合BF形成制御技術の開発に関しては、稲わら以外のバイオマスの利用展開を視野に検討を継続して行う。また、それらのバイオマス担体を用いた効率的な発酵系を構築することを目指したい。また、適切な遺伝子工学系が構築できれば、上記接着因子をクローニングして幾つかの乳酸菌で発現させたいと考えている。 乳酸菌、酵母及び酢酸菌の複合BFについては、本年度乳乳酸やアルコールを添加した場合に幾つかのタンパク発現が変化していることが明らかになったが、これらのタンパクが複合系におけるBF形成や酢酸発酵の上昇に関与している可能性があるため、それらについて引き続き検討を行いたい。また、適切な遺伝子工学系が構築できれば、これらの因子をクローニングして幾つかの酢酸菌で発現させたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
概ね予定通り研究は進んでいるものの、タンパク解析にシステムが学部内で順調に動き出し、その結果当該解析に掛かる費用が抑えられた。 最終年度であり、発酵システムの構築を含めた様々な実験を並行して実施するため、未使用額と次年度請求額について、装置試作費や試薬・培地代等の物品費に使用可能であると考えられる。また、研究発表旅費として一部使用する可能性もある。
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