研究課題/領域番号 |
24580132
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
楠本 憲一 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 食品総合研究所応用微生物研究領域, 上席研究員 (80353978)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 麹菌 / ポリリン酸代謝 |
研究概要 |
当該年度では、栄養条件やストレス負荷条件による麹菌の培養を行い、同菌のポリリン酸含有量の動態解明を行うことを目的として研究を実施した。まずポリリン酸定量に用いる出芽酵母エキソポリホスファターゼ(Ppx1p)の大腸菌生産系を確立した。大量精製した当該組み換え酵素を用いて、Wernerらの方法(2007)により麹菌菌体からのポリリン酸の抽出、定量が可能であることを確認した。また、その改変法による分生子からの抽出法を確立した。 液体培養においては、最少培地、完全培地いずれにおいても培養開始24時間程度でポリリン酸の蓄積量は最大となり、その後減少していくことが明らかとなった。プレート培養(寒天培地による半固体培養)では経時的に緩やかに増加した。培地中のリン酸濃度の増加に伴いポリリン酸蓄積量も増加するが、過剰量になると減少に転じた。また、リン酸濃度を変化さた培地から回収した分生子の蓄積量もそれと同様の変化を示した。これらの回収分生子の液体培養、プレート培養における増殖に関しては、培養に供した培地のリン酸濃度による大きな違いは観察されなかった。また計画外の成果として、固体培養についても検討の結果、米麹ではほとんどポリリン酸の蓄積は見られなかったが、ふすま培養ではポリリン酸の蓄積が確認できた。なお出芽酵母と同様、「polyphosphate “overplus”」現象の発生が観察された。 次に、液体培養時の各種ストレスによるポリリン酸蓄積量の変化について検証した。浸透圧ストレス条件下においてはアカパンカビにおける知見(Yang, 1993)と矛盾しない結果が得られた。高温ストレス条件下においては、37℃では顕著な変化はなかったが、42℃においては蓄積量に増加が見られた。金属ストレス条件下では、金属種によりポリリン酸蓄積量に異なる変化が見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度においては、栄養条件やストレス負荷条件において麹菌の培養を行い、細胞内ポリリン酸含有量の動態解明を行う計画としていた。そこで、麹菌におけるポリリン酸の定量が可能であることを確認し、その定量法を確立した。そして、最少培地、完全培地を用いた液体培養、及びプレート培養で経時的にポリリン酸量を測定した。その結果、液体培養においては培養開始後24時間で一過的にポリリン酸が増加蓄積する一方、プレート培養では経時的に緩やかな増加がみられ、培養形態によりポリリン酸蓄積状況が異なることを明らかにした。 次に、培地のリン酸濃度を変化させてポリリン酸の蓄積状況を各培地の菌糸あるいは胞子について解明し、培地中のリン酸濃度の増加に伴いポリリン酸蓄積量も増加するが、過剰量になると減少に転じることを明らかにした。また、計画外の成果として、固体培養における同蓄積状況の知見も得られた。なお、出芽酵母で発見されたpolyphosphate “overplus”」現象、すなわち低リン酸下における培養後、高リン酸培地に菌体を移し替えた際にポリリン酸の高度蓄積がみられる現象についても、同様に麹菌でも観察されることを明らかにした。 ストレス負荷条件における麹菌の培養菌体を得るため、浸透圧ストレス、高温ストレス条件、金属塩ストレスを賦与した培養を行い、一定の知見を得た。一方、酸化ストレス条件に関しては、さらに検証を継続し、影響を解明する予定である。 このように、当該年度における研究計画の大部分を実施し、結果を得たため、現在までの達成度はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度においては、麹菌のポリリン酸動態に関する基本的なデータを取得することができた。そこで、今後の研究推進においては、麹菌のポリリン酸代謝に関わると考えられる遺伝子に着目し、これらの遺伝子のポリリン酸蓄積における機能や、培養環境への順応に関わる役割を検証する。具体的には、着目した遺伝子の破壊株を、麹菌のPEG法による形質転換により作製する。形質転換株取得の際に、生育速度や胞子形成力等の観察を行い、既知の情報と比較を行う。 ポリリン酸代謝に関わると考えられる遺伝子として、麹菌ゲノム情報(http://www.bio.nite.go.jp/dogan/project/view/AO)から、酵母のポリリン酸代謝に関わる酵素遺伝子のオルソログ(相同遺伝子)5遺伝子の情報をすでに取得している。ポリリン酸の合成酵素遺伝子(ポリリン酸ポリメラーゼ)としては、出芽酵母におけるvacuolar transporter chaperone(VTC complex)の情報より、3種類、また、ポリリン酸の分解酵素遺伝子として、2種類の遺伝子を対象とする。 これら5種類の遺伝子の破壊株を、麹菌のPEG法による形質転換により作製する。形質転換株取得の際に、生育速度や胞子形成力等の観察を行い、既知の情報と比較を行う。得られた遺伝子破壊株におけるポリリン酸蓄積状況や、ストレス附加培養環境における生育速度や胞子形成に関する知見を得る。引き続き従来の糸状菌に関する知見がないポリリン酸動態情報が麹菌で明らかになれば、データを取りまとめて、論文投稿を行う。 麹菌において、ポリリン酸の蓄積量が固体培養における酸化等のストレス応答に与える影響、また、その蓄積量と生育速度や胞子形成への関連が解明されることにより、麹菌を利用する醸造産業に本研究の成果をフィードバックできると期待される。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度においては、研究費の全額を研究補助者の雇用経費に充当する。研究補助者は、実験経験の豊富な研究補助者を平成24年度に引き続き雇用する。当該研究補助者の実験補助により、麹菌のポリリン酸代謝に関わると考えられる5種類の遺伝子の破壊株を、麹菌のPEG法による形質転換により作製する。形質転換株取得の際に、生育速度や胞子形成力等の観察を行い、既知の情報と比較を行う。得られた遺伝子破壊株から、各種培養におけるポリリン酸蓄積やストレス条件における同蓄積状況について、ポリリン酸を定量しつつ、明らかにする。
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