昨年度、酵母のポリリン酸代謝に関わる酵素遺伝子のオルソログ(相同遺伝子)について、麹菌の当該遺伝子破壊株を取得した。本年度では、当該遺伝子破壊株のポリリン酸量、遊離リン酸量、総リン酸量を各種培養条件で明らかにすると共に、各種ストレス負荷培養条件が遺伝子破壊株の生育に与える影響について解明することを目的とした。 ポリリン酸合成酵素遺伝子3種類(vtcA、vtcB、vtcD)、ポリリン酸分解酵素遺伝子2種類(ppxA、ppnA)の各遺伝子破壊麹菌株について、11mMリン酸含有液体培地で振とう培養後、各リン酸量を測定した結果、合成酵素遺伝子3種類の破壊株はポリリン酸の蓄積が見られず、総リン酸量が対象株の約2倍となった。次に、ポリリン酸分解酵素遺伝子破壊株では、ppnA破壊株でポリリン酸量が対照株と比較して極めて低下していた。一方、ツァペックドックス寒天培地上にコロニー形成をさせたところ、vtcB破壊株のみが対照株と比較して有意にコロニー径が大きくなり、他の破壊株は対照株と同等であった。したがって、麹菌におけるポリリン酸合成酵素VtcBは、出芽酵母と異なる機能を有し、菌糸伸長に関与することが示唆された。 次に、重金属塩、あるいは酸化剤を添加したツァペックドックス寒天培地上にコロニー形成をさせたところ、合成酵素遺伝子破壊株3種では重金属塩存在下で対象株よりも生育が良く、重金属塩に対する耐性を示した。また合成酵素遺伝子のうちvtcAとvtcDの破壊株が過酸化水素に対して耐性を示した。分解酵素遺伝子ppnA破壊株では重金属塩のうち塩化ニッケル、また過酸化水素存在下で生育が対象株よりも低下し、感受性が増加していた。 以上のことから、麹菌におけるポリリン酸代謝関連遺伝子群は、出芽酵母の同遺伝子群とは異なる特性を有することが示唆された。
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