アセチル化に代表されるタンパク質のアシル化修飾は、バクテリアからヒトまで進化的に保存された翻訳後修飾として近年注目されている。バクテリアにおけるアセチル化の役割として代謝酵素の調節、走化性、ストレス応答との関連が知られているが、翻訳制御における役割についてはまだ報告がない。本研究では、翻訳伸長因子EFTuを中心に翻訳制御におけるアシル化修飾の意義を明らかにすることを目的とした。 前年度までに、枯草菌由来EFTuはアセチル化だけでなくスクシニル化修飾も受けており、それらの修飾レベルが培地条件や培養フェーズによって大きく変動することを明らかにした。また、EFTuにおけるアセチル化及びスクシニル化部位をMS解析により同定した。今年度は、tRNAとの相互作用ドメインに位置するスクシニル化部位に着目して、その機能解析を行った。該当するリジン残基に対し、グルタミン酸置換(スクシニル化模倣)またはアルギニン置換(非修飾模倣)を導入した変異株を作成した。変異の影響をより自然な形で評価するために、変異導入はゲノム上のオリジナル位置に対して行った。増殖に対する影響を評価したところ、スクシニル化模倣変異体はLB及びグルコース最少培地で増殖の低下を示した一方で、非修飾模倣変異体では影響は認められなかった。次に、変異株より粗リボソーム画分を調製し、in vitroで翻訳活性を測定した。その結果、スクシニル化模倣変異体では野生型や非修飾模倣変異体と比較して30%まで翻訳活性が低下していた。以上の結果から、EFTuのtRNA相互作用ドメイン内のスクシニル化部位は、スクシニル化修飾を受けることにより翻訳活性が負に制御されることを明らかにした。
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