研究課題/領域番号 |
24580151
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
老川 典夫 関西大学, 化学生命工学部, 教授 (80233005)
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キーワード | D-アミノ酸 / アミノ酸ラセマーゼ / シロイヌナズナ / セリンラセマーゼ / D-セリン |
研究概要 |
シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)のセリンラセマーゼ遺伝子(serr)破壊株の調製を、シロイヌナズナT-DNAタグラインを用いて検討した。まずT-DNAがserr上に挿入されたシロイヌナズナ変異株の種子をかけもどし交配し、serr以外の遺伝子上に存在するT-DNA挿入変異を除去した。得られたF2種子をスルファジアジン含有GR培地で生育させた。PCRの結果、いくつかのホモ型T-DNA挿入変異株を取得することに成功した。これらのF2種子を、ロックウールに播種しF3種子を得た。そして得られたF3種子をスルファジアジン含有GR培地で生育させた。PCRの結果、serrにホモ型でT-DNAが挿入された変異株の取得に成功した。このF3種子をシロイヌナズナのセリンラセマーゼ破壊株として用いることとした。一方シロイヌナズナのserrの過剰発現株を、アグロバクテリウムを用いる形質転換系を用いて調製した。発現ベクターにserrを挿入し、Agrobacterium tumefaciensに形質転換した。これをシロイヌナズナに感染させプラスミドを導入した。この形質転換体のT2植物からmRNAを抽出しqRT-PCRを用いてserrの定量を行った。その結果、野生株より約16倍高いserrの発現が確認され、シロイヌナズナのセリンラセマーゼ過剰発現株の取得に成功した。これらのシロイヌナズナのセリンラセマーゼ破壊株及び過剰発現株の種子を、さまざまな濃度のD-セリンを含む培地に播種し、その影響を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はまずシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)のセリンラセマーゼ遺伝子(serr)破壊株と過剰発現株を調製することを達成目標とした。シロイヌナズナのserr破壊株は、T-DNAタグラインを用いることにより調製することができた。またシロイヌナズナのserr過剰発現株は、アグロバクテリウムを用いる定法により調製することに成功した。そこでさらに得られたこれらのシロイヌナズナのserr破壊株と過剰発現株の発芽や成長に及ぼすD-セリンの影響を解析することができた。シロイヌナズナの野生型株は、培地中に0.1 mM D-セリンを添加した時、生育阻害がみられ、さらに1 mMのD-セリンの存在下では全く生育できないことが明らかとなった。また、serr過剰発現型株は、0.1 mMのD-セリンの存在下でも生育に影響を受けないことが明らかとなった。さらにserr破壊株は、0.01 mMのD-セリンの存在下でさえ生育阻害が起きることが明らかとなった。D-セリン存在下で野生型株、serr破壊株、serr過剰発現株の生育を比較した結果、シロイヌナズナのセリンラセマーゼの生理的機能は、D-セリンを分解し解毒することであることが明らかとなった。以上の結果から、植物アミノ酸ラセマーゼの生理的機能が初めて明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの研究成果により、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)のセリンラセマーゼは、根から吸収されたD-セリンの解毒に関与することが明らかとなった。今後得られたシロイヌナズナのセリンラセマーゼ遺伝子(serr)破壊株及び過剰発現株を用い、D-セリンに対するシロイヌナズナの生育挙動の再現性を確認する。さらに当初の達成目標に加えて、D-セリン以外のD-アミノ酸やL-アミノ酸を培地に添加し、それぞれのアミノ酸のシロイヌナズナの発芽や生育に及ぼす影響をも検討する。以上の研究結果から、植物のDーアミノ酸毒性防御戦略機構の全容を解明する。また最終年度であるので、これまでの研究成果を取りまとめ論文として投稿する。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初計画より旅費の支出が少なかったため、これに相当する金額の次年度使用額が発生した。 次年度は当該分野の国際学会があり、当初計画より旅費が必要となるため、次年度使用額をこれに使用する計画である。またその他の次年度経費は当初計画通り消耗品、旅費、研究成果公表のための英文校閲料、論文投稿料として使用する予定である。
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