最終年度は、前年度までに調製することに成功したシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)のセリンラセマーゼ遺伝子(serr)破壊株、過剰発現株、および野生株を用い、当初計画のD-セリンとさらにD-セリン以外のD-アミノ酸やL-アミノ酸を培地に終濃度1 mM添加し10日間培養後、それぞれのアミノ酸のシロイヌナズナ株の発芽や生育に及ぼす影響を定性的に評価した。その結果、D-およびL-セリン、D-アラニン、D-アルギニン、L-リシン、D-およびL-ヒスチジン、L-メチオニン、L-ロイシン、L-allo-ロイシン、L-バリン、L-イソロイシン、D-およびL-チロシン、D-およびL-トリプトファン、D-およびL-フェニルアラニンにより野生株に生育阻害が起こることが明らかとなった。一方すべてのアミノ酸により顕著な生育促進は起こらないことが明らかとなった。そこで野生株に生育阻害を生じたL-、D-セリン、D-アラニン、L-リジンおよびD-アルギニンの濃度依存性を定量的に評価した。その結果、5種すべてのアミノ酸によって胚軸長および第一本葉長の伸長、重量の増大という全ての要素で濃度依存的な阻害が認められ、外因性D-およびL-アミノ酸による阻害は特定部位の発達に対して特異的にではなく、植物体全体の生育に作用することが明らかとなった。さらにD-セリン添加時には、セリンラセマーゼ過剰発現株では耐性向上傾向が認められ、セリンラセマーゼのD-セリン分解活性によるものと考えられた。また、L-セリン添加時には、セリンラセマーゼ過剰発現株およびセリンラセマーゼ遺伝子破壊株の両株において耐性の向上が認められた。以上の研究結果から、全研究期間を通じて植物のD-アミノ酸毒性防御戦略機構の全容を解明することができこれまでの研究成果を取りまとめ論文として投稿した。
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