研究課題/領域番号 |
24580157
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
永田 晋治 東京大学, 新領域創成科学研究科, 准教授 (40345179)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 昆虫 / 摂食行動 / ペプチド / ネットワーク |
研究概要 |
我々の研究グループでは、カイコBombyx moriの幼虫を用いて、摂食行動を調節すると考えられるペプチド性の因子群を同定してきた。本研究はその因子群がどのようにネットワーク形成し、摂食行動のモチベーションを形成しているかを見極めることを目的としている。我々が同定してきたペプチド性摂食行動調節因子群に対する受容体は、既に他のグループで網羅的解析により同定されているため、まず、カイコ幼虫でのそれらの受容体の発現を解析した。その結果、いくつかの受容体が、満腹あるいは絶食などの摂食状態に応答して発現量が変動していた。 この結果の中で、我々は2つの因子に着目した。すなわち、カイコ幼虫において摂食行動を正に調節する因子であるshort neuropeptide F (sNPF)と、摂食行動を負に調節するアラトトロピン(AT)である。発現解析ではsNPFおよびATの受容体は、ともに腸管で強く発現していた。また、それらの発現量は絶食状態により顕著に減少し、再給餌により元のレベルまで回復した。sNPFの受容体に関しては、カイコ幼虫から摘出した腸管を用いたex vivoの解析においても、再現良く発現量が変動し、今後の発現調節因子を探索する準備できたと考えられる。 実際に、現在、sNPF受容体の発現量変動を調節している栄養分あるいは、代謝物の同定を試みている。また、sNPFおよびATの受容体の発現変動をさらに解析するため、sNPFおよびATの受容体のプロモーターを解析し始めた。 一方、昆虫において摂食行動を調節する因子と代謝酵素との関連性がこれまで報告されているものの、あまり分子レベルでは解析されていない。平成24年度では、sNPFと腸管の消化酵素との関連性を検討した結果、sNPFの投与量に依存して腸管内腔のプロテアーゼ活性が上昇していたことを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究計画における3つの項目研究についてそれぞれの進行状況を報告する。 A.摂食行動関連因子およびその受容体の脳神経系での発現部位と発現量を解析する。;これまでに、我々が同定したカイコにおける摂食行動関連因子およびその受容体の発現部位を解析した。その結果、脳神経系の特に前額神経球で発現していた。また、多くの摂食行動関連因子の受容体は腸管でも発現していた。ところが、詳細な発現細胞の同定には至らず、次年度以降の課題となった。ただ、さまざまな解析をsNPFとATに絞ったところ、それらの受容体の発現量が生理的条件で変動することを明らかにし、今後様々な因子との関連性やネットワークを解析する上で有用な手がかりが得られた。 B.摂食行動関連因子による代謝・消化酵素、腸管の蠕動運動、生体アミンへの影響を分析する。;Aの解析の通り、様々なカイコの摂食行動調節因子群の中で、解析する因子をsNPFとATに絞った結果、腸管での消化酵素の分泌がsNPFの投与量に依存することを明らかにした。ところが、他の摂食行動関連因子による腸管への作用(筋収縮や蠕動運動)や生体アミンの生合成・分泌への影響などの解析には至らなかった。 C.摂食行動関連因子あるいはその受容体の発現量を変化させるような栄養分あるいは代謝物を同定する。;Aでの解析に時間がかかり、Cの解析はほとんど着手できなかった。しかし、カイコ幼虫から摘出した腸管を用いたex vivoの解析で、sNPF受容体の発現量が、培養する培地の組成により変動することを見出した。このことは、培地の成分あるいはその代謝物がその転写量を制御していることを強く示唆する。この発見は、世界的にも先駆的なものであり、他の研究計画を差し置いても進めるべき内容であったため、その詳細な条件を検討し、当初の研究計画を次年度に先送りすることとした。
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今後の研究の推進方策 |
当初予定していた計画とは多少遅れがあるものの、「現在までの達成度」の項に示したとおり、計画していた研究の途中で期待以上の成果をあげることができた。今後の方針としては、引き続きその成果をまとめる方向に進め、一方で当初の研究計画も同時進行させることとする。以降、研究計画の3項に沿って記す。 A.摂食行動関連因子およびその受容体の脳神経系での発現部位と発現量を解析する。;カイコ幼虫の腸管に発現しているsNPFとATの受容体の発現量の変動を解析しつつ、摂食条件によるsNPFとATの分泌量を、定量系を確立しつつ明らかにしていく。また、様々な摂食関連因子の発現部位を細胞レベルで明らかにする。 B.摂食行動関連因子による代謝・消化酵素、腸管の蠕動運動、生体アミンへの影響を分析する。;カイコ幼虫の腸管での消化酵素の分泌がsNPFの投与量に依存することを明らかにしたので、その作用機序を解析していく。同時に、sNPFやATの腸管への作用、特に筋収縮や蠕動運動についても解析し、それぞれの生体アミンの生合成および生体アミンの分泌量なども解析する。 C.摂食行動関連因子あるいはその受容体の発現量を変化させるような栄養分あるいは代謝物を同定する。;カイコ幼虫から摘出した腸管を用いたex vivoの解析で、sNPF受容体の発現量が、培養する培地の組成により変動することを見出した。そこで、培地の成分あるいはその代謝物の中の、sNPF受容体の転写量を制御している因子を同定する。同様に、その分子の各摂食状態での量的な振動を分析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究全般で生化学的手法および分子生物学的手法を用いるための試薬などを主な消耗品としている。 また、国内の学会(日本分子生物学会および日本農芸化学会に参加予定)に参加発表のために国内旅費を利用。 また、研究成果の発表として上記学会以外に海外の雑誌に報文を投稿する予定であり、そのための原稿の英文校閲料、投稿料に利用。 さらに、学内の共通分析機器の利用のための使用料に利用する予定である。 なお、平成25年度は設備備品には利用する予定はない。
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