研究課題/領域番号 |
24580166
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 富山県立大学 |
研究代表者 |
五十嵐 康弘 富山県立大学, 工学部, 教授 (20285159)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | タイ |
研究概要 |
Streptomyces属の生産する抗菌・抗浸潤活性物質alchivemycinの分子中央にみられるtetrahydrooxazine構造は天然、合成いずれにも前例のない共役複素環系であり、その生合成に興味が持たれた。その複素環骨格の生合成起源を解明するにあたり、13C標識酢酸およびプロピオン酸の取り込み実験を行ったところ、基本骨格には取り込みが認められたが、複素環を構成する四炭素のうち二炭素は標識されなかった。複素環部分はテトラミン酸の生合成様式からN-ヒドロキシグリシンが前駆体と類推されたため、13C標識グリシンとN-ヒドロキシグリシンの取り込みを調べたところ、いずれも複素環の予想される炭素が標識された。特にグリシンは極めて高効率で取り込まれたことから、生合成酵素はグリシンを基質として認識し、酵素との複合体を形成したのちにN-ヒドロキシグリシンへと水酸化される経路が強く示唆された。 昆虫病原糸状菌Simplicilliumの生産する免疫抑制物質preussinはピロリジンの2位と5位にそれぞれベンジル基とアルキル基が置換したアルカロイドである。ピロリジン単環から成る化合物の生合成に関する知見は少ないため、本化合物の生合成経路の解明を試みた。側鎖部分はポリケタイド経路、芳香環部分はアミノ酸に由来すると予想し、13C標識酢酸およびフェニルアラニンを添加培養した。13C NMRおよび2D-INADEQUATEスペクトルの解析に基づき、側鎖末端から芳香環へと炭素鎖伸長が進み、酢酸由来の一炭素が脱炭酸し、分子内還元的アミノ化反応を経てピロリジン環を形成する経路が推定された。ポリケタイド鎖のα-位がアミノ酸チオエステルを求核攻撃し炭素鎖を形成する経路は、テトラミン酸生合成とは異なる様式であり、糸状菌二次代謝の多様性を理解する上で興味深い知見と言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、安定同位体標識化合物の取り込みによる生合成前駆体の同定と標識位置の解析に基づく生合成経路の推定を、放線菌由来ポリケタイドalchivemycinと糸状菌由来PKS-NRPS混合化合物preussinに関して達成することができた。これらの実験では市販の13C標識試薬に加えて、13C標識化合物を合成する必要があった。また、preussinの生合成実験ではフェニルアラニンの標識体二種類と酢酸の標識体三種類の添加培養を行い、2D-INADEQUATE解析による酢酸取り込み位置の特定を行う必要があった。これらの実験には日数を要し、一年間で結果を得るに相応しい内容と判断される。Alchivemyinの生合成に関する結果をまとめた論文は学術誌に投稿中であり、preussin生合成の論文については作成中である。
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今後の研究の推進方策 |
Alchivemycinの推定生合成経路を証明するため、生産菌から生合成遺伝子をクローニングし、異種発現により生合成遺伝子クラスターを同定する。また、その配列相同性から機能同定を試み、特にNRPSが認識するアミノ酸基質の特定を検討する。 Streptomyces属から単離した浸潤阻害物質BG32-16 (laetimycin)は、デカリン骨格に14員環ラクトンが縮環した新規ポリケタイドである。非常に奇妙なことに、粘液細菌Sorangiumから単離された、本化合物と同一の炭素骨格を有するchlorotonil Aはlaetimycinとは逆の絶対構造を有する。本研究では、laetimycinとchlorotonil Aが互いに鏡像異性体として生成するメカニズムの解明に向けてlaetimycin生合成遺伝子の解析を行う。 Nocardiopsis属放線菌から単離したnocapyrone Eは、anteiso型アルキル鎖を有するγ-ピロンであり、前駆脂肪細胞の分化誘導活性とコハク酸依存電子伝達経路の阻害作用を示す。微生物二次代謝において、anteiso末端はL-isoleucineに由来することから、そのメチル基の絶対配置はS配置である。ところがこれもまた奇妙なことに、大類-赤坂法により分析結果は、nocapyrone Eの側鎖メチル基がR/S=2:3の混合物であることを示した。このようなメチル基の立体異性が混合した化合物の報告例は全く存在しない。また別のNocardiopsis属放線菌から単離したrachapyroneはanteiso型アルキル鎖を有するα-ピロンであるが、そのメチル基の絶対配置もまたR/S=1:1の混合物であった。何故、立体制御がなされていないのかを解明するために、まずは推定される生合成前駆物質の13C標識化合物を添加培養し、取り込み様式を解明する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度はalchivemycinとlaetimycinの生合成遺伝子クローニングを目的として、ゲノムのドラフトシーケンスを行うために約100万円を使用する。残額の約110万円は、微生物の培養、生産物の単離、生合成基質の化学合成などで必要となる消耗品、試薬類の購入に充てる。
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