Streptomyces属の生産するBG32-16 (anthracimycin)の生合成遺伝子クラスターには3個のmethyltransferaseドメインが存在し、骨格中のメチル置換基がメチオニンに由来することが示唆された。放線菌のtype I PKSでは、メチル基をメチオニンから取り込む例は極めて珍しいため,13C標識メチオニンと13C標識酢酸の添加培養による取り込み実験を行い,anthracimycinが有する3個のメチル基が実際にいずれもメチオニンに由来することを証明した。 計画していたnocapyrone類の生合成研究は、生産の回復が得られなかったため断念し、二種類のポリケタイドakaeolideとlorneic acidの生産菌Streptomyces sp. NPS554株のゲノム解析を通じて見出された生産物未知のポリケタイド合成酵素の生産物の構造解明を試みることとした。NPS554株には8個のtype I PKS遺伝子クラスターが存在し、そのうち2個がakaeolideとlorneic acidの生合成遺伝子クラスターと特定された。残り6個のクラスターのうち、3個のPKSからはそれぞれ炭素鎖長が23個,24個,35個のポリケチドが生産され, UVスペクトルの吸収極大波長はそれぞれ200 nm,240 nm,330 nmと推定された。これらの情報に基づき,NPS554株培養物のHPLCデータを再解析したところ,330 nmに吸収極大を示す未知成分ピークが検出された。これを単離、構造解析した結果、4つの二重結合とカルボニルが共役したポリエン構造,スピロケタール構造,ポリヒドロキシ鎖を含む新規大環状ラクトンであり、akaemycinと命名した。本化合物は細菌,酵母には活性を示さず,PenicilliumやRhizopusなどの糸状菌に選択的な抗菌作用を示した。
|