研究実績の概要 |
天然物をモデルとしてデザインされた分子プローブは、生体機能解明のためのツールとして非常に重要である。本研究では、3種類の生物活性天然物をモデルとした機能性分子プローブの創製とそのための方法論の開発を目的とした。まず、強力な腫瘍壊死因子(TNF)-α発現制御活性を持つバイナリンBの標的分子探索のため、バイナリンBに化学的安定性を施したジベンゾフラン系p-テルフェニル型分子プローブをデザインし、その合成を達成した。このプローブを用いたバイオアッセイが現在進行中であり、標的分子の解明が期待される。また、バンレイシアセトゲニンによるミトコンドリアコンプレックスI阻害の作用機構解明に有用と考えられる環状エーテル化合物の効率的な合成法を開発した。最終年度では、放線菌の培養液から単離されたN-アセチルグルコサミニダーゼ阻害剤であるTMG-キトトリオマイシンをモデル化合物としたオリゴ糖鎖の新規合成法の開発を行った。D-グルコサミンならびにその2糖誘導体であるN,N'-ジアセチルキトビオースからの合成ルートを検討し、TMG-キトトリオマイシンの持つ4糖構造だけでなく、その2糖ならびに3糖アナログの合成を達成した。また同様の酵素阻害活性を持つ単糖アナログ、ポコニシンの提出構造式を合成研究により訂正することに成功したが、この知見を基に、D-グルコピラノース環状酸素原子を窒素原子に置き換えた1-デオキシノジリマイシンタイプの新規なアナログをデザインし、D-グルコサミンからその完全保護体の合成ルートを開発した。合成されたオリゴ糖鎖ならびに1-デオキシノジリマイシンタイプのアナログは、各種N-アセチルグルコサミニダーゼに対する阻害作用を調べる事でさらなる阻害剤のデザインと創製に役立つだけでなく、当該酵素の機能解明のためのツールになると考えられる。
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