研究実績の概要 |
甘味は、舌上の味細胞の細胞膜上に存在する膜タンパク質、甘味受容体によって受容される。本研究では、甘味受容体と味物質の分子相互作用解析を目指し、ヒト甘味受容体の細胞外ドメインの発現系構築と解析を行った。 ヒト甘味受容体はhT1R2とhT1R3という異なる2分子から形成されるヘテロ二量体である。各サブユニットはN末端細胞外ドメイン(ATD)、システイン残基に富むCys-rich領域、7本のα-ヘリックスから成形成される膜貫通領域、C末端細胞内領域で形成される。これらの領域のうち、味物質と結合するATDのみの発現系構築と生産した組換えタンパク質の解析を行った。 タンパク質の安定性と可溶性を考え、ATDをマルトース結合タンパク質(MBP)との融合タンパク質として発現させた。hT1R2, hT1R3のそれぞれのATDのN末端側にMBPを配置し、2つのタンパク質の間にはTEVプロテアーゼ切断部位、さらに全体のN末端にヒスチジンタグ、C末端にFLAGタグを付加した融合タンパク質の発現系を構築した。培養温度を18℃とし、Origami(DE3)にジスルフィド結合イソメラーゼ(DsbC)発現プラスミドを導入した大腸菌株において、目的タンパク質が可溶性画分に確認できた。hT1R2-ATDとhT1R3-ATDでは、hT1R3-ATDのほうが発現量が多かったので、以降の実験ではhT1R3-ATDとMBPの融合タンパク質を用いた。 この融合タンパク質をヒスチジンタグに対するアフィニティクロマトグラフィーにより精製し、プロテアーゼTEV処理によりMBPとhT1R3-ATDを切り離した。プロテアーゼ処理後に得られたT1R3-ATDの安定性は非常に低く、また濃縮も困難であった。T1R3-ATDの分子サイズをゲルろ過クロマトグラフィー、動的光散乱(DLS)、原子間力顕微鏡(AFM)の手段で解析したところ、予想されるサイズよりも遥かに大きいことが判明した。
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