マトリプターゼはアミノ酸残基855からなる膜結合性セリンプロテアーゼであり、生体内において上皮完全性の維持に重要な役割を担っている。本酵素は一本鎖前駆体のアルギニン614のカルボキシル末端で限定分解を受けジスルフィド結合を介して結合した二本鎖の活性型へと変換される。マトリプターゼ前駆体はプロテアーゼ活性を有し、活性化開裂を自己触媒的に行うことが示されてきている。なお、マトリプターゼは触媒ドメインとステムドメインからなるモザイク型の酵素分子である。本研究ではマトリプターゼ前駆体の活性発現機構、特に活性発現におけるステムドメインの意義、また前駆体活性に影響を及ぼす食品成分を明らかにすることを目的とする。我々はCHO-K1細胞を用いてマトリプターゼの全細胞外領域を含むもの(proMAT)や触媒ドメインのみからなる組換え型マトリプターゼ(proCDMAT)を生産してきた。これらは精製した段階では一本鎖酵素であるのでこのものをモデルマトリプターゼ前駆体として使用できる。本研究では低密度リポ蛋白質受容体ドメインと触媒ドメインからなる組換え型マトリプターゼ(deltaCUB-proMAT)も作成した。proMATやdeltaCUB-proMATは合成基質Ac-FTKQAR-MCAを切断するが、proCDMATにはその活性がほとんどみられず、このことから低密度リポ蛋白質受容体ドメインが前駆体活性発現に重要であることが示唆された。マトリプターゼ前駆体(S805A-proMAT)を基質とした場合でも同等の結果が得られた。また、proMATの活性はEDTA存在下で阻害されたが、このことからマトリプターゼ前駆体の活性発現には2価のカチオンが要求されることが示唆された。
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