研究課題/領域番号 |
24580185
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
田中 保 徳島大学, ヘルスバイオサイエンス研究部, 准教授 (90258301)
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研究分担者 |
徳村 彰 徳島大学, ヘルスバイオサイエンス研究部, 教授 (00035560)
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キーワード | 消化管粘膜 / 抗消化性潰瘍 / 植物 / リン脂質 / リゾホスファチジン酸 / ホスファチジン酸 / ムチン |
研究概要 |
昨年度の研究により、植物リン脂質のホスファチジン酸(PA)とその消化物のリゾホスファチジン酸(LPA)の前投与がアスピリン誘導性胃潰瘍を効果的に抑制することがわかった。本年度はこれらのリン脂質の作用メカニズムの解明と、抗消化性潰瘍食候補の選定を目的として研究を進めた。 既に、小腸粘膜の恒常性には2型LPA受容体(LPA2)が関与していることが報告されている。マウス胃のLPA2の分布を調べた結果、胃粘膜の表層粘膜細胞に発現していることがわかった。その発現は食物と接するアピカル側形質膜に局在し、頂端側の細胞ほど強いので、分化成熟に伴い発現が増すと思われる。 LPA2を発現するヒト胃由来株化細胞MKN74をにおいて、LPA刺激はプロスタグランジンE2産生を促進することを確認している。今年度の検討ではムチン分泌も促進している可能性が浮上した。LPAはこれら粘膜保護因子の増強を介して抗消化性潰瘍効果をもたらしている可能性がある。 既にキャベツなどアブラナ科野菜にPAが多いことを見出しているが、繊維質に富む野菜は胃内滞留時間が長く、胃潰瘍患者には好ましくない。穀類について調べたところ、ソバがキャベツに匹敵するほどのPAを含むことがわかった。また、ソバPAはアスピリン潰瘍を効果的に抑制することも確認された。生野菜の場合、加熱によりPA産生能を失うが、ソバの実は加熱の有無に依らず高いPA含量を示す。このことも抗潰瘍食として好ましい点である。 消化管粘膜に作用すると考えている別の植物リン脂質のフィトセラミド-1-リン酸(PC1P)について、検討を進めた。その結果、このリン脂質はグルコシルイノシトールリン酸セラミド(GIPC)の加水分解によって生じることが明らかになった。今後、GIPCおよびPC1Pの消化管への効果について検討する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ホスファチジン酸やその消化物として生じるリゾホスファチジン酸(LPA)の抗消化性潰瘍作用の機序として、新たにムチン分泌促進作用が見つかった。LPAは胃だけでなく、他の組織における内分泌、外分泌に関与している可能性がある。 抗消化性潰瘍食候補としてソバを見出した。ソバはキョウバクと呼ばれる生薬で、中国の代表的本草学書「本草綱目」によると、・ 胃を開き、腸を寛やかにする。・気を下し、積を消す。・急性腸炎やコレラ、 腸胃積滞、 慢性下痢によいとされている。今回の発見はこのソバの効能に科学的エビデンスを与える可能性がある。実際、ソバのPAには抗アスピリン潰瘍効果が認められたが、ソバそのものが抗潰瘍性食として真に有効か、ついてはさらなる検討が必要である。 フィトセラミド-1-リン酸(PC1P)は本研究の初期に見出したリン脂質で、培養細胞への活性化をもたらす可能性がある。本年度の研究結果から、このリン脂質はグリコシルイノシトールホスホセラミド(GIPC)の加水分解で生じることが明らかになった。PC1PやGIPCの消化吸収については不明であり、PAやLPAのように消化管細胞に作用する可能性を調べる必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
アブラナ科脂質中に見出された新規リン脂質のフィトセラミド-1-リン酸(PC1P)は何らかの生理活性を発揮する可能性がある。また、PAの抗胃潰瘍効果はその消化物として生じるLPAが表層粘液細胞上の受容体に作用した結果と考えられるが、PAそのものも細胞内シグナル分子であり、細胞内に取り込まれれば、細胞機能を発揮させる可能性がある。今年度は、GIPCやPC1Pの消化吸収を調べると共に、PC1PとPAの胃由来細胞に対する作用(増殖、遊走、ムチン産生、プロスタグランジンE2産生)を調べる。 リゾホスファチジン酸(LPA)のムチン分泌促進作用について詳細に検討する。関与する受容体、細胞内シグナリング経路、分泌様式、正常胃粘膜上皮細胞から分泌されるか?他の分泌腺への効果は?といった観点から実験を企画する。 ソバの抗胃潰瘍食としての可能性をさらに検討する。ソバ粉末を懸濁液として動物実験に供与する。良好な結果ならば臨床試験を計画する。
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次年度の研究費の使用計画 |
計画していた動物実験の一部を翌年度に行うよう計画を変更したため。 マウスを用いた抗胃潰瘍食実験に用いる。
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