研究課題
消化管が食物と接触しない時間が長く続くと、粘膜の萎縮や脱落が起こる。このことから、食物やその消化物には消化管粘膜の維持に関わる因子が存在すると考えられる。前年度実施した研究により、植物性食品に多く含まれるリン脂質のホスファチジン酸(PA)とその消化物・リゾホスファチジン酸(LPA)がアスピリン誘導性の胃潰瘍を抑制することがわかった。本年度はPAを豊富に含む穀類を検索した。その結果、調べた穀類の中ではそばがPAを豊富に含むことがわかった。そばのPAは甘皮と呼ばれる種皮部分に濃縮されていた。また、米では糠に、麦ではふすまにPAが多いことが判明し、PAは精製過程で取り除かれる種子の種皮部分に濃縮されていた。アブラナ科の生野菜も高いPA含量を示す食品であるが、このPAはホモジナイズの際に生じたものであり、ホスホリパーゼD(PLD)の活性化に依存している。実際、煮沸した野菜のPA含量は著しく低い。これに対し、そばのPAはホモジナイズの際に生じたものではなく、元からPA-richなリン脂質組成であった。そばは加熱の有無に依らず、効率的にPAを摂取できる食材で、抗消化性潰瘍食として好ましい性質を備えている。一方、培養細胞を用いた解析の結果、ヒト胃由来MKN74細胞にLPAを作用させると形質膜の活発な膜運動を伴った小胞分泌が起こった。染色試薬を用いた解析からこのとき放出される小胞は細胞質成分を含んでいることが判明した。現在、この現象をさらに解析しているが胃の表層粘液細胞からのムチン分泌と関連する現象ならば、PAやLPAには胃粘液増強作用が期待できる。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (5件)
BioFactors
巻: 40 ページ: 355-361
10.1002/biof.1147
Biochim. Biophys. Acta
巻: 1841 ページ: 121-131
10.1016/j.bbalip.2013.10.07
Lipids
巻: 49 ページ: 423-429
10.1007/s11745-045-3896-5