研究課題
基盤研究(C)
メタボリックシンドロームを背景とする肥満関連疾病が喫緊の健康問題となって久しいが、その人口は決して減少には転じていない。この統計的な結果は肥満そのものの改善がいかに困難であるかを物語っている。肥満によってもたらされる疾病の多くに、脂肪細胞の機能異常が関わっており、脂肪細胞の機能改善は疾病の予防に繋がると考えられる、本研究では、肥満に伴って生じる脂肪組織内の低酸素ストレスを食品成分により緩和する事によって、脂肪細胞の機能改善および慢性炎症予防を通じ肥満関連疾病の予防に貢献する事を目的とする。また、肥満関連疾病にの予防に向けた新規な低酸素ストレスバイオマーカー開発へつなげる事も目標として掲げる。本年は低酸素ストレス条件下において、脂肪細胞に生じる変化について検討した。3T3-L1マウス前駆脂肪細胞を従来法に従い、成熟脂肪細胞へ分化誘導し、成熟脂肪細胞を得た。成熟脂肪細胞を1%低酸素条件で培養したところ、低酸素ストレス3時間後には低酸素ストレスの指標となる、hypoxia-inducible factor-alphaの顕著な蓄積が認められた。次に、1%低酸素条件下でのアディポネクチンの産生を検討したところ、低酸素条件下ではアディポネクチンの培地への分泌と細胞内レベルが著しく抑制された。また、アディポネクチンは生体内では様々な多量体として存在するが、低酸素下ではアディポネクチンの多量体化も抑制されることが示された。
2: おおむね順調に進展している
本年度は低酸素条件下での脂肪細胞におけるシグナル伝達の解明と、低酸素ストレス条件下でのマーカーマーカーの探索を目的として実施した。さらには低酸素ストレスマーカーを指標に生活習慣病予防食品成分を探索することを目標としている。低酸素ストレスマーカーとして、これまでわれわれは血管新生誘導因子であるvascular endothelial growth factorや炎症誘発に関わるmonocyte chemoattractant protein-1などが低酸素ストレスによって誘導されることを示してきた。これらは脂肪組織環境を増悪させる因子として、種々の生活習慣病を増悪させる要素として認識されている。今回、これらのサイトカインとは逆に生活習慣病抑制的に作用するアディポネクチンがタンパク合成レベルのみならず、そのアッセンブリを抑制することが明らかとなり有用な低酸素マーカーであることが確認できた。また、シグナル伝達に関しては詳細なシグナル伝達解析には至らなかったが、本研究において設定した条件でhypoxia-inducible factor-alphaの蓄積が認められてことから、次年度以降におけるシグナル伝達解析のための基本情報が得られたと考えている。また、新たな機能性食品成分探索として、hypoxia-inducible factor-1alphaの蓄積抑制作用を指標にスクリーニングを進めたところ、1種類の脂肪酸がヒットしており、食品成分探索においても順調に進展していると判断した。
シグナル伝達解析の観点から低酸素ストレス条件下でのAkt/PKB経路の活性化を確認するとともに、PDK1, 2を中心として上流分子の活性化状態を確認することで、低酸素ストレスによるシグナル伝達系を明らかとする。また、Akt/PKB分子の阻害剤、siRNAによるノックダウンを行うことでAkt/PKB分子以下のシグナル伝達系を明らかにするとともに、Akt/PKB分子の活性化と炎症誘発、血管新生誘発および脂肪蓄積との関連を明確にする。特に、脂肪合成の観点からはグリコース取り込みへの影響さらにPIP5KやAS160分子の役割を明確にして行く。本年度見いだした、hypoxia-inducible factor-1alphaの蓄積抑制効果を有する脂肪酸やカフェ酸フェニルエステルなどを中心としてAkt/PBK経路の阻害活性を有する食品成分の探索を行うことで、低酸素ストレス緩和作用を有する食品成分を見いだす。さらに、本年度明らかとした、低酸素ストレス下でのアディポネクチン産生撹乱を抑制する食品成分の探索を進める。
シグナル伝達解析における細胞培養のために、細胞培養試薬(培地、牛胎児血清)、細胞培養用器具(プラスティックディッシュ、プレート、ピペット)を購入予定。また、シグナル分子の検出のため抗体および検出試薬の購入予定。また、低酸素ストレスマーカー探索のため、プロテインチップを購入し、解析予定。平成24年度における研究成果公表のための、学会参加旅費を支出予定。
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