研究課題/領域番号 |
24580193
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
山崎 正夫 宮崎大学, 農学部, 准教授 (80381060)
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キーワード | 脂肪細胞 / 低酸素 / 線維化 / 糖尿病 |
研究概要 |
本研究は、脂肪組織内における低酸素ストレスが脂肪組織を構成する細胞集団の機能に及ぼす影響を評価し、それらの影響を標的した新たな生活習慣病予防・改善作用を見いだすことを目標とした。まず、成熟脂肪細胞を低酸素ストレス下で培養したところ、抗糖尿病因子であるアディポネネクチンの産生が低下するとともに、多量体化されたアディポネクチンの産生量も減少した。これらのアディポネクチン産生低下は共役リノール酸の添加により回復しており、多量体化したアディポネクチン産生も回復する傾向にあった。このような共役リノール酸の効果はperoxisome proliferator-activated receptor-gamma活性化を原因とするものではなかった。 また、前駆脂肪細胞を標的として低酸素ストレスを与えたところ、Hypoxia-inducible factor-alphaの安定化が認められたことから、前駆脂肪細胞も低酸素ストレスに対して応答することが示された。さらに脂肪組織の線維化と低酸素ストレスとの関連を明らかにするために、細胞外マトリクスの産生に対する影響を評価したところ、低酸素ストレスでは不溶性コラーゲン量の増加と可溶性コラーゲン量の低下が認められた。また、コラーゲンIの遺伝子発現は低酸素ストレスで増加していた。さらに、コラーゲンの架橋を触媒し、線維化を助長する因子であるlysyl oxidaseの発現も亢進していた。 これらの結果から脂肪組織における低酸素ストレスは線維化誘発や糖尿病病態悪化に貢献することが示唆され、低酸素におけるこれらの因子の産生変化が新たな生活習慣病予防・改善作用の標的となり得ることが期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
低酸素における脂肪細胞や脂肪組織を構成する細胞集団の機能性におよぼす影響は順調に評価できており、本年は新たに線維化との関連を示すことができた。さらに、低酸素ストレス緩和効果を持つ食品成分も見いだすことができた。これらの点からin vitroでの研究は予定通りに進んでいると判断した。In vivoの試験においては、肥満モデル動物における低酸素ストレスと各種肥満関連病態の関係を示すため、組織サンプリング等の作業が完了したが評価が十分には進んでいない。このためトータルでは概ね順調な進捗と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
In vitroにおける研究成果をin vivoで実証する試験を実施する予定である。動物は肥満モデル動物を使用し、脂肪組織内におけるhypoxia-inducoble factor-1alphaレベル、コラーゲン量、lysyl oxidaseレベルを指標としてin vitro試験の実証を進める。また、in vitroで得られた、低酸素による線維化誘発とアディポネクチン産生低下に関してはそのメカニズムを明確にするとともに、これらの応答を制御できるような食品成分の探索へと展開する。特に、アディポネクチン産生に関してはAMPK経路の関与に注目するとともに、低酸素により誘発されると推定される小胞体ストレスとアディポネクチン産生撹乱との関連を明らかとする。また、線維化に関する作用機構として、Transforming growth factor (TGF)-betaシグナリングにおける低酸素ストレスの役割を明らかにするとともに、TGF-beta産生そのものに対する低酸素の影響を評価する。さらには、脂肪組織内において機能異常をもたらすもう1つの要因である炎症刺激と低酸素ストレスの相乗的な作用についても評価を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
in vivoにおける生体組織の解析を次年度に繰り越したため。 次年度、動物血清中のタンパク質解析において、アディポネクチン解析および生体内コラーゲン量を解析する。このための定量用試薬の購入に繰り越した額を配当する。
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