研究課題/領域番号 |
24580205
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 神戸学院大学 |
研究代表者 |
水品 善之 神戸学院大学, 栄養学部, 准教授 (20307705)
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研究分担者 |
入野 康宏 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (10415565)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 食品成分 / 栄養素 / DNA合成酵素 / 健康機能性食品 / 酵素阻害剤 / 抗炎症活性 / 抗がん活性 / メタボローム解析 |
研究概要 |
哺乳類に存在する15種類のDNA合成合成酵素(DNAポリメラーゼ、pol)分子種のうち、抗pol抗体カラムを用いての生化学的手法やpol遺伝子を導入した組換え体大腸菌や昆虫細胞を構築しての遺伝子工学的手法により、活性があって精製されたpol分子種11種類を準備した。そして、食品成分や栄養素から哺乳類のpol分子種選択的阻害剤を探索した。平成24年度の主な研究成果は次のとおりである。 (1)水煮大豆を製造したときに廃棄される煮汁にpol阻害活性を見いだしたので、活性を指標にして活性成分2物質を単離・精製した。そしてNMRおよびMSにより化学構造を解析した結果、既知物質の糖脂質(グルコシルセラミド)とステロイド配糖体であった。これらは哺乳類のpol分子種のうちDNA修復・組換え型であるpolλを特異的に阻害した、そして、これら2物質には起炎剤TPAで誘導体したマウス耳浮腫に対する抗炎症活性が見られたことから、polλ阻害活性に基づいた抗炎症活性が示唆された【Mizushina et al. (2012) Food Chem. 132, 2046-2053】。 (2)野菜など植物由来の精油20種類の哺乳類pol阻害活性を調査したところ、DNA複製型であるpolαを最も強く阻害したのはカモミール精油であった。ヒト大腸がん細胞(HCT116 cells)の増殖抑制活性については、20種類の植物精油の中でカモミール精油が最も強い活性を示した。カモミール精油の構成成分をGC-MSで分析して各成分の活性を調査した結果、α-Bisabololがpolαを阻害してがん細胞増殖を抑制したことから、polα阻害活性に基づいた抗がん活性が示唆された【Mitoshi, Mizushina et al. (2012) J. Agric. Food Chem. 60, 11343-11350】。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(1)哺乳類pol分子種の精製 哺乳類のpol分子種は、polα~νの15種類の存在が知られている。抗pol抗体カラムを用いての生化学的手法、およびpol遺伝子を導入した組換え体大腸菌や昆虫細胞を構築しての遺伝子工学的手法により、活性があり精製された11種類(polα、β、γ、δ、ε、η、ι、κ、λ、μ、TdT)のpolタンパク質の調整に成功した。これによりpol分子種選択的阻害剤の探索が可能になった。 (2)ビタミンK3によるpolλの化学的ノックアウト解析 マウス・マクロファージ(RAW264.7 cells)は抗原提示細胞であり、グラム陰性菌外膜の成分であるリポ多糖(LPS)によって、炎症マーカーであるTNF-αの産生が亢進されて炎症が誘発される。その際に、細胞内で活性酸素種(ROS)が上昇して、核内のDNA損傷が増加するので、それに伴いDNA修復・組換え型であるpolλのmRNAやタンパク質の発現量が増大することをreal-time PCR法やWestern-blot法で明らかにした。また、遺伝子導入によりpolλを過剰発現させるとTNF-α産生が亢進し、RNA干渉によりpolλの発現をノックダウンさせるとTNF-α産生が抑制されることを見いだした。polλの化学的ノックアウト剤であるビタミンK3は、polλ活性を阻害し、細胞内のpolλ発現を抑制するだけでなく、LPS誘導によるTNF-αの産生を抑えることを明らかにした【Y.Mizushina et al. (2012) Curr. Org. Chem. 16, 2961-2969】。これらの結果から、polλはTNF-αに伴う炎症反応に関係することが示唆された これら(1)および(2)の研究成果から、当初の計画以上に研究は進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
(1)見出した食品由来のpol分子種阻害物質の健康機能性調査 [I] 抗がん活性試験: ①ヒトがん細胞増殖抑制活性試験:ヒト由来各種がん細胞株に対する増殖抑制活性は、WST-1法により実施する。また、細胞周期停止やアポトーシス誘導の有無を解析する。 ②抗腫瘍活性試験:免疫不全マウスであるヌードマウスへヒト由来がん細胞を移植してからpol分子種阻害物質を経口投与して、形成される固形腫瘍の大きさ(体積)を計測する。腫瘍体積の縮小を抗腫瘍活性とする。 [II] 抗炎症活性試験: ICR系マウスの耳へ起炎剤としてTPAを塗布して炎症を誘発させ、そのマウス耳へpol分子種阻害物質を塗布して、7時間後の耳重量変化を計測することで抗炎症活性を評価する。 [III] 安全性試験: ①ヒト正常細胞の毒性試験:市販のヒト由来正常細胞についてはトリパンブルー染色により生死を判定し、細胞増殖の影響について評価する。 ②動物投与試験:マウス・ラットを用いての急性毒性試験(単回大量投与)と安全性試験(6ヶ月間の長期投与)を実施する。投与後は、個体の体重および各臓器重量の増減の測定、および臓器異常が見られるかなどの形態観察を行う。 (2)見出した食品由来のpol分子種阻害物質のメタボローム解析: pol分子種阻害物質を細胞培養系へ添加もしくはマウスへ投与した後、細胞組織を回収・抽出してから、神戸大学医学部・質量分析総合センターにおいてメタボローム解析を実施する。本解析では、水溶性代謝物(アミノ酸・有機酸・糖類)と脂溶性代謝物(脂肪酸・ステロイドなど)の定性および定量分析を網羅的に行う。pol分子種阻害物質の添加・投与の有無による代謝物の種類とその量の差異を比較・解析することで、代謝経路の変化から作用機序を解明する。そして、polを中心とするDNA代謝と健康機能性(抗がん/抗炎症/その他の作用)の関連性を考察する。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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