研究課題
今年度(平成25年度)は、栄養素・食品素材からDNA合成酵素(DNAポリメラーゼ、pol)分子種に対する選択的阻害剤の探索研究とpol阻害活性に基づいた健康機能性の解析を実施した。その主な研究成果は次の通りである。(1)日本酒製造の副産物(食品産業廃棄物)である酒米の米糠(ぬか)にpol阻害活性があり、活性成分を単離・精製して、構造解析した結果、γ-オリザノールの一種であるフェルラ酸シクロアルテニルであった。本物質はpolλ阻害活性に基づいた抗炎症活性を示したことから、酒米の米糠を原料とする化粧品開発が期待できる【Food Chem. (2013) 141, 1000-1007】。(2)ビタミンK3の誘導体であるナフトキノン(NQ)は、哺乳類pol群のうちpolλを選択的に阻害することを見いだした。マウス・マクロファージ(RAW264.7細胞)はグラム陰性菌外膜の成分であるリポ多糖(LPS)で刺激すると炎症マーカーであるTNF-αを産生するが、NQはTNF-αの産生を抑制した。また、起炎剤TPAで誘導体したマウス耳浮腫に対する抗炎症活性を示した。リアルタイムPCRでpol群のmRNA発現量の変化を調査するとRAW264.7細胞はLPSによってpolλのmRNA発現量が増大した。RNA干渉によりRAW264.7細胞のpolλタンパク質をノックダウンするとLPSで刺激してもTNF-α産生は増加しなかった。これらの結果より、polλ発現および活性と炎症反応は関連していることが分かった【Int. J. Oncol. (2013) 42, 793-802】。(3)RAW264.7細胞におけるLSP刺激の有無、およびpolλ特異的阻害剤であるクルクミン添加の有無によるメタボローム(代謝物変化の網羅的解析)を実施して、現在、代謝経路(パスウェイ)を解析中である【論文投稿準備中】。
1: 当初の計画以上に進展している
(1)哺乳類pol分子種の精製:哺乳類のpol分子種は、polα~νの15種類の存在が知られている。pol遺伝子を導入した組換え細胞を構築しての遺伝子工学的手法および生化学的手法により、活性があり精製された11種類(polα、β、γ、δ、ε、η、ι、κ、λ、μ、TdT)のpolタンパク質の調整に成功した。これによりpol分子種選択的阻害剤の探索が可能になった。(2)栄養素・食品素材から哺乳類pol分子種選択的阻害物質の探索:今年度(平成25年度)の本研究では、15物質以上のpol分子種選択的阻害物質を見いだして、論文発表19報(うち査読有19報)、著書(図書)発表2報、学会発表23回を行った。(3)ビタミンK3誘導体であるNQ(polλ選択的阻害剤)によるpolλの化学的ノックアウト解析とpolλノックダウン解析との比較: RAW264.7細胞は抗原提示細胞であり、LPSによってTNF-αの産生が亢進されて炎症が誘発される。その際に、細胞内で活性酸素種(ROS)が上昇して、核内のDNA損傷が増加するので、それに伴いDNA修復・組換え型であるpolλのmRNAやタンパク質の発現量が増大することをreal-time PCR法やWestern-blot法で明らかにした。また、RNA干渉によりpolλの発現をノックダウンさせるとTNF-α産生が抑制されることを見いだした。polλの化学的ノックアウト剤であるNQは、polλ活性を阻害し、細胞内のpolλ発現を抑制するだけでなく、LPS誘導によるTNF-αの産生を抑えることを明らかにした。NQの有無によるRAW264.7細胞のメタボローム解析を実施して、現在データ解析中である。これらの結果から、polλはTNF-αに伴う炎症反応に関係することが示唆された上記(1)~(3)の研究成果から、研究は当初の計画以上に進展しているといえる。
(1)見いだした食品由来のpol分子種阻害物質の健康機能性調査[I] 抗がん活性試験: ①ヒトがん細胞増殖抑制活性試験:ヒト由来各種がん細胞株に対する増殖抑制活性は、WST-1法により実施する。 ②抗腫瘍活性試験:免疫不全マウスであるヌードマウスへヒト由来がん細胞を移植してからpol分子種阻害物質(polα選択的阻害剤)を経口投与して、腫瘍体積の縮小を抗腫瘍活性とする。[II] 抗炎症活性試験: マウスの腹腔へ起炎剤LPSを投与して、pol分子種阻害物質(polλ選択的阻害剤)を経口投与して血清中のTNF-αの産生の変化をELISA法で測定する。TNF-αの産生抑制を抗炎症活性とする。[III] 抗アレルギー試験: マウス受身皮膚アナフィラキシー(passive cutaneous anaphylaxis:PCA)反応を常法により測定し、pol分子種阻害物質(polλ選択的阻害剤)によるPCA反応阻害活性をI型の抗アレルギー活性とする。polλ阻害活性と抗アレルギー活性との相関性を調査する。pol活性とアレルギーとの関連についての報告はこれまでに無く、新しい概念を提唱できる可能性がある。(2)見いだした食品由来のpol分子種阻害物質(NQ)のメタボローム解析: NQをRAW264.7細胞へ添加した後、細胞組織を回収・抽出してから、神戸大学医学部・質量分析総合センターにおいてメタボローム解析を実施した。パスウェイ解析(代謝経路の変化を解析)によって作用機序を解明する。そして、polを中心とするDNA代謝と健康機能性(抗がん/抗炎症/抗アレルギー/その他の作用)の関連性を考察する。
今年度(平成25年度)は、RAW264.7細胞へpol選択的阻害剤の添加の有無によるメタボローム解析、すなわち機器分析を中心に実施していた。そのために新規な試薬購入など物品費が予定よりも少なくなり、次年度使用額が生じた。「見いだした食品由来のpol分子種阻害物質の健康機能性調査」を遂行するにあたり、多くの動物実験を実施するため、実験動物代をはじめとする物品費として使用する。
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