研究課題/領域番号 |
24580209
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
隅田 明洋 北海道大学, 低温科学研究所, 准教授 (50293551)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | アロメトリー / 樹幹 / 森林生態学 |
研究概要 |
平成24年度の目的は、生物学的要因として樹冠動態を取り入れることによって幹形状の形成過程を解明することにあった。連携研究者(龍谷大学 宮浦富保教授)が保有するヒノキ(Chamaecyparis obtusa)同齢林の樹齢21-40年の期間の全個体(142個体)の非破壊的調査データを用い、群落の発達とともに各個体の幹がどのように太るのかについて、線形混合モデル等を使用した解析を行なった。 どの個体でも、樹冠下(胸高から樹冠基部まで)では、幹の上側ほど直径成長速度ΔDが胸高直径成長速度ΔDBHよりやや大きくなる傾向があった。しかし同一個体内のΔDの変異は個体間のΔDBHの差異と比べると小さかった。一方、幹断面積の成長速度ΔAはΔDのほかに幹直径Dにも関係するので、優占個体では胸高に近いほど、被圧個体では逆に樹冠基部に近いほど、樹冠下のΔAが大きかった。これに対し、樹冠内ではどの個体でもΔDがΔDBHより大きく、ΔDBHが0に近い被圧個体でも樹冠内のΔDは正の値を示した。優占個体では成長とともに樹冠が長くなり、個体葉量の指標となる樹冠基部の幹直径DCBは大きくなった。しかし、被圧個体では樹高成長より樹冠基部上昇速度のほうが速いために樹冠は短くなりDCBは小さくなった。すなわち、葉のある部分(樹冠内)では幹は順調に太る一方、樹冠下の幹の太りは個体葉量の長期変化パターンに左右されていた。このような樹冠の上と下との直径成長の違いの程度は、被圧個体ほど大きく異なっていた。これらの現象を説明する生理的なメカニズムを、葉の更新の必要性の観点とそれにかかわる既知の生理的メカニズムとの関連で示唆した。 以上の内容はTree Physiology誌にOpen Access論文として掲載されたほか、付録および調査データも同誌の論文URLから公開し、フリーで利用可能としている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の一つ目の目標は、幹の形成過程を生物的・生態的観点から明らかにすることにあった。「研究実績の概要」で示したように、この目標は、樹高成長・樹冠基部高の上昇・幹の部位別の直径成長パターンやこれらの測度間の関連の解析から達成することができた。また、これらの結果をまとめた論文を平成24年9月にTree Physiology誌に投稿した。この論文受理は同年12月、掲載は2013年の33巻第1号(平成25年1月発行)であり、想定以上のスピードで論文発表を行なうことができた。したがって、この目標については順調に進み達成することができた。 平成24年度の二つ目の目標は、樹形に関するTTモデル、すなわち、樹冠基部高と樹高、樹冠基部の幹直径、胸高直径との間のシンプルなアロメトリー関係(Sumida et al. , 2009)の成立理由の解明である。これについては、一つ目の目標を達成する過程でかなり明確になってきた。平成24年度末の時点ではさらに解析を進めている段階であるが、問題解決の目処は立っており、論文作成および投稿にむけて図表や原稿を準備する段階まで到達することができた。また、次年度(平成25年度)以降に行なうことになっている、様々な森林へのTTモデルの適合性解析に使うデータについてはほぼ収集を終えた。 以上のように、平成24年度は研究を順調に進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度(平成25年度)以降も予定どおり研究を進めていく予定である。すなわち、(1)TTモデルの成立理由を明らかにした解析を完了し論文を学会誌に投稿すること、(2)熱帯~亜寒帯の様々な森林における公開済みおよび未公開の樹木の伐倒調査データを用い、様々なタイプの森林に対してTTモデルの適合性を吟味し、TTモデルを利用したアロメトリーが簡便な葉量推定方法になりうるかどうかについて解析を行なうこと、である。 一方、平成24年度に終了した解析を通して、新たな方向への研究展開の可能性が見えてきた。すなわち、明らかにした幹の形成過程と樹冠動態との関係性を、既知の生理メカニズム研究や生理プロセス研究にダイレクトに関連づける研究へと展開しようとするものである。この可能性については、本課題の成果として発表したTree Physiology論文にも短いディスカッションとして触れておいた。 この研究展開の糸口として、別目的で取得済みのシラカンバの当年性シュートおよび芽の動態調査データを利用した解析を検討中である。このシュート動態解析がうまくいけば、Tree Physiology論文のディスカッションの正当性を補強するものとなる。したがって、次年度にこのシュート動態解析が本研究課題の一部として展開可能かどうかを新たに検討する予定である。この検討は上述のTTモデルの成立理由の解析(1)の直後に行ないたい。 これに関連して、この新たな研究展開のための情報収集の一貫として、次年度(平成25年度)以降は、これまで予定しておいた解析の合間に、樹木生理学的な研究を行なっている国内の研究者との情報交換およびディスカッションを徐々に行なう予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
・打ち合わせおよび情報収集: 連携研究者(龍谷大学 宮浦富保教授)との打ち合わせのほか、「今後の研究の推進方策」で述べた新たな研究展開の可能性を検討するため、国内の他の研究者とも情報交換を行なう。旅費の使用は次年度の前半から行なう。 ・学会参加のための国内旅費: 日本植物学会(2013年9月)、日本森林学会(2014年3月)、日本生態学会(2014年3月)の各大会に参加し、成果発表と情報収集を行なう。したがって、これらについては年度の途中および年度末の支出となる予定である。 ・論文の英文校閲、および論文別刷り: TTモデルの成立理由解明に関する論文については、秋頃までに投稿を行ないたい。したがって、そのための英文校閲料も夏から秋頃にかけて使用する。年度内に掲載される可能性も考慮して、オープンアクセス掲載料、別刷り等は年度後半に使用予定としておく。また、「今後の研究の推進方策」で述べた、シュートの動態調査データ解析および論文作成準備が早く進んだ場合を想定し、この英文校閲料も年度後半に使用する。 ・以上のほか、参考図書、解析途中で使用するプリント用紙、バックアップ用ハードディスクなど、本課題に関わる消耗品は適宜使用する。また、経費の節減により生じた未使用額は本課題に関わる消耗品費に充てる。
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