研究課題/領域番号 |
24580209
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
隅田 明洋 北海道大学, 低温科学研究所, 准教授 (50293551)
|
キーワード | アロメトリー / 樹幹 / 樹冠 / 個体葉量 / 幹乾重 / 葉面積指数 / 幹バイオマス |
研究概要 |
平成25年度当初は、幹の長さと幹断面積との関係を表すTTモデルの成立理由を明らかにすることを第一目標としていた。しかし、平成24年度に発表・出版したTree Physiology論文内容の発展として、個体の葉量・幹乾重と群落全体の葉量・幹バイオマスとの関連との解析を行うなかで、同論文発表時に公開したヒノキ林の20年調査データを用いることで林冠閉鎖後に群落LAI (葉面積指数)がほぼ一定に保たれるメカニズムを明らかにできることを着想した。このメカニズム解明は本調査データを用いることによって初めて可能となるものであるが、データを公開してしまったためこのメカニズム解析が競争的環境にさらされることとなってしまった。一方、この新規解析を行うことは、TTモデルの成立理由の説明を堅固にするという本研究課題の目的に沿うものであることから、当初の解析順序を変更し、上述の解析を最優先させることとした。この際、既存の森林調査データを用いて個体の幹乾重および個体葉面積を推定する式を新たに導出し、個体ベースデータから群落全体にスケールアップする手法によって群落の幹バイオマスと葉面積指数の長期変動との関係を明らかにすることができた。さらに、20年間のヒノキ林調査と同時期に記録された近隣の気象測候所およびアメダスデータからヒノキ林調査地の過去の気象を推定する作業を行った。これにより、調査地の幹バイオマスやLAIの長期変動と気象要因との関係を明らかにすることができた。これらの一次解析結果は、日本植物学会第77回大会および第61回日本生態学会大会において発表した。現在この内容を論文化し投稿する準備を進めている。 なお、上述のTree Physiology論文は、2013年4月以降、同誌ホームページ上に毎月発表される"Most-read Articles"50位以内に毎月ランクインしている(2013年10月~2014年2月号(最新発表)までは常に5位以内)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「研究実績の概要」で説明したように、研究内容にLAI長期変動メカニズムに関する新規の解析を加えることとした。このことは、本研究課題の成果として発信可能な内容が研究当初に予想していた論文数よりも増えたことを意味する。研究の進行順序を変更してこの新規解析を優先して行うこととしたため、研究開始当初に計画していた2年目の解析を後回しにしたという意味で、達成度を「やや遅れている」とした。この新規解析を行う際、新たに既存データの収集や気象データの収集・調整が必要となり、これに想像以上に時間がかかってしまったことが遅れが生じた主な要因であるが、その後の解析は「研究実績の概要」で説明したように順調に進んでおり、この新規解析の論文作成も進んでいる。むしろ、最初の成果論文(2013年発表のTree Physiology論文)をベースとして、当初全く予想していなかった形で研究を大きく展開させつつある。このように、研究自体は順調に進められている。 一方、論文作成順序を後回しにしたために保留していた樹形に関するTTモデル関連の解析、すなわち、樹冠基部高と樹高、樹冠基部の幹直径、胸高直径との間のシンプルなアロメトリー関係(Sumida et al. , 2009)の成立理由の解明については、解析はほぼ終了しており、すでに論文作成および投稿にむけて図表や原稿を準備する段階まで到達している。上述の新規解析論文投稿後はすぐにこれらの論文作成作業にとりかかることができる。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度(平成26年度)は、LAI長期変動メカニズムに関する新規解析についての論文を早い段階で投稿する予定である。6月にはブラジルで開催される樹冠に関するIUFROの国際会議 "Complexity in forest canopy processes" での発表を申請中であり(発表が承認されるのはH26年4月下旬)、それまでに投稿を済ませたい。それ以後はこれらのために保留していた研究(TTモデルの成立理由結果の論文化、熱帯~亜寒帯の様々な森林におけるTTモデルの適合性に関する解析と論文化)を当初の計画にそって順次進めていく予定である。 一方、本研究課題の最初の成果として発表ずみのTree Physiology 論文で、解析結果が樹木内の葉の更新パターンと深く関わっているはずだと指摘した。これを確認することは、TTモデルが時間とともに発達する樹冠において成立することを証明するうえで重要であると考えられる。これに対する既存のデータが不足しているが、これを補うためには、同論文内で示唆したように、枝の枯れ上がり現象と個々の枝内の葉の生産と脱落のバランスとが連動していることを示すことができればよい。そこで、平成26年度においては、このことを確認するための補助的な調査を北海道大学札幌キャンパス内のアカエゾマツ人工林で行うこととした。同林分のアカエゾマツ個体の枝の観察と光環境についての調査を生育期間に行う予定である。この調査は北海道大学の大学院生がすでに進めている修士課程の研究の一環として実行することが可能であり、平成26年度内に結果を発表する予定である。 また、新たな研究展開のための情報収集の一貫として、前年度と同様に次年度(平成26年度)以降も、これまで予定しておいた解析の合間に、樹木生理学的な研究を行なっている国内の研究者との情報交換およびディスカッションを徐々に行なう予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額に相当する額は、当該年度内に論文投稿に関わるものとして計上していたもの(英文校閲料、掲載時のオープンアクセス料、外国送金料など)でる。すなわち、「研究実績の概要」および「現在までの達成度」の項で説明したように、当該年度に本研究課題にかかわる新規解析を導入したことによる論文執筆・投稿が次年度にずれこんだために生じたものである。 上記論文の作成はすでに始めており、6月頃までをめどに投稿する予定である。このため、論文掲載も次年度内に可能となると予想され、次年度使用額分は消化可能であるとの見通しがある。また、次年度投稿予定の論文の解析もほぼ終了しているため、これについての所要予算も6月以降に順次執筆し投稿を進めることで消化していく予定である。さらに、6月上旬にはブラジルで開かれる国際学会での発表を大会委員会に申請しており、受理されないことは考えにくいため、最終年度に外国旅費として計上していた金額も消化可能な見込みである。
|