広域調査として、山形県内の16林分において各10基のシードトラップを設置し、開花・結実を調べた(この調査はすでに2003年から継続している)。また、林分レベルの観察として、山形県鶴岡市の天然生ブナ二次林において18基のシードトラップを設置して開花・結実を調べた。また個体レベルの調査として同林分の45本の個体について目視による開花・結実調査を実施し、併せて高所作業車により陽樹冠から枝葉を採取し葉の特性、食害の程度、タンニン量およびSPAD値を測定した。 林分レベル調査から2012年および2014年は凶作年、2013は結実年に相当することが明らかになった。2003年からの継続データと合わせると、山形県全体において豊作だったのは2005年だけであり、2011年および2013年には地域により作柄が異なるのが特徴であった。これらのデータから、山形県のブナ林が豊作になるための条件を抽出した。その結果、春に350個/㎡以上の雌花が開花すれば豊作に至ることが明らかになり、これにより作柄の約9割を説明できることが判明した。この条件を基に、新たに「ブナの豊凶予測手法」を開発し、公表した。山形県庁では、2014年度から同手法に基づいて県内のブナ林の豊凶予測をホームページ上で公開することになった。 一方、45個体の個体レベルの調査では、2013年の結実年でも結実個体と非結実個体に分かれ、繁殖程度が個体間で大きく異なることが明らかになった。これらの個体では、食害の程度、タンニン量、SPAD値にも個体による差異が観測された。したがって、従来の認識とは異なり、繁殖や食害防御に関わる諸形質には個体間変異があることを明らかになった。ただし、繁殖量や回数の多かった個体が必ずしもタンニン量が多かったり、葉が硬かったりしていたわけでなく、両者の間には明確なトレード・オフ関係は見いだされなかった。
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