ハンノキ属樹種は放線菌のフランキアと根で共生し大気中の窒素を利用する窒素固定能力を持つ。本研究では、30年前に発生した木曽御嶽山の岩屑流跡地に天然更新したハンノキ属数樹種の窒素固定能力について、樹種間の違い、同一樹種の立地間での違いを明らかにすることを目的とした。標高別の固定調査プロット、高標高区(約2000 m)、中標高区(約1600m)、低標高区(約1100 m)を調査地とした。高標高区では、撹乱時に表土が残らなかった高標高区ー表土なし区も対象とした。窒素固定能力は、窒素安定同位体比を用いた手法により評価した。窒素固定の同位体分別を-1と仮定した。ハンノキ属樹種と窒素固定能を持たない樹種(主にカバノキ科樹種:コントロール樹種)が同所的に生育している数地点で、葉の成熟後の8月に樹冠葉の同位体分析を行った。ハンノキ属樹種とコントロール樹種の葉の窒素安定同位体比の差が、中標高区以外の調査区で明瞭に見られ、中標高区を除いて窒素固定の寄与率の評価にこの手法を適応できることを確認することができた。窒素固定の寄与率は、植生の回復が早い低標高区のケヤマハンノキが、高標高区と高標高ー表土なし区のミヤマハンノキとヤハズハンノキに比べて低かった。植生回復に伴う土壌形成の進行が窒素固定の寄与率に影響していると推察された。同所的に生育するミヤマハンノキとヤハズハンノキの窒素固定の寄与率には、樹種間差が見られなかった。中標高区での窒素固定の寄与率の評価ができなかったため、同一樹種での標高間比較をすることができなかった。本研究の結果から、まだ定性的ではあるが、撹乱後30年経過した状態でも、ハンノキ属樹種の窒素経済における窒素固定能力に対する依存度が高く維持されていることが示唆された。
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