火山灰による土壌中のリンの移動制限が森林の成長に及ぼす影響を調べるため、火山噴出物による影響の強い菊池試験地と、変成岩からなり火山噴出物の影響の少ない鹿北試験地の2つの試験地のヒノキ林で比較を行った。本年度は、広義の可給性の指標である表層土壌中の酸抽出リン(Bray2およびMerlich3)および、土壌全炭素窒素量を測定した。その結果、いずれの項目も菊池試験地が2倍程度大きいことがわかった。通期での結果を集約すると、イオン交換膜法を用いて現場で通年測定した可給態養分量は、リン酸以外の他のイオンは既往の文献と同様の季節変化が得られ、硝酸態窒素は菊池試験地の表層土壌が鹿北試験地より有意に大きいことが明らかになったが、リン酸イオンの吸着はいずれの試験地でもほとんど検出がなかった。酸性フォスファターゼ活性は菊池試験地が2倍程度大きかった。これらの結果は、火山灰の影響の強い菊池試験地ではリンを含む化合物の粘土鉱物への吸着量が大きく、その分解に作用する微生物の活性も高いことを示していた。それぞれの試験地の土壌中の炭素濃度と対応していたことを考慮すると、吸着された有機物量の違いが大きく影響していたと考えられた。火山灰の影響の少ない風化の進んだ土壌では予想に反して植物に容易に利用できるリン画分は少なく、逆にリンの制限が強いと考えられた火山灰影響下の土壌では難溶性のものを含めるとプールが大きく分解者の活性も高いことが新たな知見として得られた。火山灰影響下の土壌では従来考えられたようなリン移動制限が存在するものの、総量と微生物活性を考慮すると逆に樹木にとってリン獲得に有利な環境下である可能性が示唆された。
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