研究課題/領域番号 |
24580239
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
木村 聡 東京大学, 農学生命科学研究科, 助教 (00420224)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | セルロース / 生合成 / ホヤ |
研究概要 |
セルロースは多種多様な生物が生産し、地球上で最多量に存在する天然高分子である。セルロースは高分子としては比較的シンプルな化学構造である。しかし生物のセルロース生合成に関して、その全貌は不明なままである。本研究ではシンプルなセルロース合成系を有するホヤのセルロース合成酵素に着目し、酵母による組換えタンパクの生産、酵素モノコンポーネントのセルロース合成活性を明らかにすることを目的にしている。平成24年度、カタユウレイボヤ(Ciona intestinalis)のセルロース合成酵素遺伝子(CiCesA)のクローニング、発現ベクターへサブクローニング、メタノール資化酵母(Pichia pastoris)への遺伝子組込み作業を完了し、組換えCiCesAタンパク質の抽出に関する作業を進めた。Pichia細胞において、組換えCiCesAタンパク質が細胞の水不溶性画分、そのほとんどは細胞膜画分、に発現することをゲル電気泳動により確認できた。引き続き、Pichia細胞を大量かつ迅速に破砕して組換えタンパク質を大量抽出するため、窒素ガス圧力式細胞破砕器(本研究課題にて購入)を利用した細胞破砕とタンパク質抽出効率を検討した。その結果、ゼイモリアーゼによる前処理で細胞壁の部分分解を施すことで細胞破砕が効率良く行えること、およびタンパク質発現誘導の時間とゼイモリアーゼによる前処理の最適条件を明らかにできた。酵母細胞による組換えタンパク質生産は、強固な細胞壁を効率よく破壊することが最初の重要なステップであり、今年度の成果により組換えタンパク質による各種実験の基盤を構築できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、ホヤのセルロース合成酵素(CiCesA)をモノコンポーネントとして単離、その活性や特性を明らかにすることを最終目的としている。今年度、Pichia細胞への遺伝子組込みおよび誘導発現実験を行い、組換えCiCesAが主に細胞膜画分に蓄積することおよび誘導時間と共にタンパク質発現量が増加することを明らかにできた。組換えCiCesAの発現確認の次のステップである、Pichia細胞の大量培養と破砕装置を使用した組換えタンパク質の大量抽出に関して条件検討したところ、強固な細胞壁を有するPichia細胞においては細胞壁溶解酵素による細胞の軟化処理が必要であること、酵素にはザイモリアーゼが有効であることを明らかにできた。これらの実験と結果は、ほぼ研究計画どおりに遂行でき、実験上の問題点は想定範囲内であった。大量調製した細胞膜画分から組換えCiCesAを可溶化する実験を年度後半に順次遂行した。一次スクリーニング分として選択した膜タンパク用界面活性剤によるCiCesAの可溶化実験を行った。今年度検討した条件ではCiCesAの十分な可溶化は含まれていないことがわかった。研究計画では、本年度中にCiCesAの可溶化条件を確立する予定であったが、次年度に持ち越すこととなった。条件の確立が遅れた理由は、CiCesAの電気泳動物のウエスタン解析の煩雑さにある。この問題に対して、最近市販された迅速な転写装置と新規抗体を使用することで対処することとした。
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今後の研究の推進方策 |
Pichia破砕物の細胞膜画分からCiCesAタンパク質を効率良く可溶化する界面活性剤の種類と濃度条件を網羅的にスクリーニングする。可溶化の評価をSDS電気泳動、HisタグおよびCel6抗体を使用したウエスタン解析を行う。今年度、ウエスタン解析ではゲルから転写膜への転写および抗体処理の時間が作業の律速となることが判明した。2013年度では、迅速な膜転写システムを新たに導入して作業効率を上げる。CiCesAタンパク質の可溶化の条件を明らかにした後、粗CiCesAタンパク質を用い、UDPグルコースの添加による試験管内グルカン合成を行う。活性の評価は、合成された水不溶性物の定量、タンパク質あたりのグルカン合成活性を評価するとともに、合成産物に対し電子顕微鏡、X線回折、FTIRによる構造解析、GC-MASによる結合解析を行なう。酵母細胞を発現系として使用しているので、セルロースの他に1-3グルカン類の生成が予想される。1-3グルカンとセルロースの生成量も考慮して活性評価を行う。そして年度終盤には、一連の実験を、アフィニティーカラムを使用した精製CiCesAタンパク質においても進め、モノコンポーネントの活性測定へと研究を発展させる。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費として、膜転写システムの新規購入のための予算を新規に計上する。転写装置の付属消耗品や研究活動の迅速化を目的にキット類を使用して研究を進める方針である。そこで研究費のほとんどを試薬類などの物品費として計上する。翌年度以降においてもグルカン活性測定に使用する試薬類を主要な研究費として計上する予定である。
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