研究課題/領域番号 |
24580240
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
斎藤 幸恵 東京大学, 農学生命科学研究科, 准教授 (30301120)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 化学加工 |
研究概要 |
植物は数μm径の細管から成る細胞構造を持つ。反応場をマイクロサイズにすると、化学反応そのものに本質的な影響を与え、マクロで実現しない反応でも効率よく展開されることが知られている。本研究では、植物のセル構造を微小反応装置として機能させることで、木材自身が熱分解して放出する微量なガスを原料とした気相成長により、新奇なカーボン材料を創製する。さらに、炭化後も保持される木材由来の細胞構造を活用して機能材料化に用い、これらの材料創製をとおして、植物細胞構造のマイクロシステムとしての機構を明らかにするとともに、従来の化石資源由来の炭素材料と異なる、植物の構造的特徴を活かした製造法と応利用とを探ることを目的としている。 今年度は次の2つのテーマを中心として研究を進め、それぞれ成果を得た。 ①種々の気相成長炭素の創製とその効率化:低温での形成と収率の増大について検討した。細胞形態・化学成分組成から非常に興味深い対照であるサトウヤシ葉鞘をターゲットとした。 Myrtha Karina博士(インドネシア科学院LIPI、物理研究所研究員)の協力を得、サトウヤシ葉鞘について、熱分解から炭化の中間温度域に比表面積が増大する条件を見出し、その炭化形成を詳細にした。 ②気相成長炭素物質の機能材料化のための加工:生成物のうち円錐スタック炭素に関しては、表面の炭素六角網平面のエッジ部が、活性の高さゆえ互いに結合して不活性化している。硫酸インターカレーションで、閉じたエッジ部を露出させ活性化させ、更に規則的に堆積した円錐状炭素六角網平面をグラフェン様に剥離し薄層化(膨張化)することに成功した。膨張化した炭素六角網平面は、電池、断熱材、緩衝材などの工業原料・資材へ幅広く応用され得る。更に、知りうる限り炭素材料では初めて、この膨張化炭素が熱応答で可逆的に形状を変えるインテリジェント材料となりえることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課題①に関してはサトウヤシ葉鞘について、熱分解から炭化の中間温度域での炭化形成を詳細にし、この成果「サトウヤシ葉鞘繊維の低温熱処理による炭化形成(後藤晴加、斎藤幸恵、Farah Fahma、佐藤雅俊、岩田忠久、Myrtha Karina)」を第63回日本木材学会大会(2013年3月岩手大学)にて発表した。 課題②に関して木材細胞構造を利用した、炭素物質を機能材料化のための加工についての成果「Exfoliation and thermally dependent expansion-contraction behavior of helical-conical whiskers(Yukie Saito)」および「Helical structure of cone-shaped graphitic whisker revealed by transmission electron microscopy (Yukie Saito, Jean-Luc Putaux)」をthe Annual World Conference Carbon 2012(2012年6月、ポーランド)で、「植物の細胞内腔に形成するスパイラル円錐炭素(斎藤幸恵)」を第39回炭素材料学会年会(2012年11月、長野)にて発表した。 当初計画の7割程度まで達成したといえる。ただし①は今後触媒を用いた気相成長へ進め、②は細胞構造の微小反応容器として作用機構を記述・評価する方法の確立という目標を残すので、評価区分(2)とした。
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今後の研究の推進方策 |
課題①に関しては、鋳型や核、触媒としての作用により、炭素構造の多様化と生成の効率化を図る必要がある。具体的には、カーボンナノチューブ、カップ型カーボンフィラメント、カーボンナノコイルなどが生成する際に触媒する遷移金属元素類のほか 、低温での効率よい熱分解ガス生成に作用する無機塩類、酸触媒、これら両方の機能を合わせ持つといわれるSi等を作用させる。熱分解・生成反応の過程を熱分析装置で定性的にトレースし、加熱ステージを用いたIR 分光法、ラマン分光法により発生気体種をin situ で捉える。熱分解反応を段階的に停止させ、生成物を走査および電子顕微鏡・電子線回折・X線回折・ラマンおよび赤外分光法によって構造解析する。これにより、細胞のサイズ・透気性、および温度・圧力制御法が、反応にどのような効果をもたらすかを、明らかにする。他の植物種との比較もおこなう。 課題②に関しては、木材細胞構造の微小反応容器として作用機構を記述・評価する方法の確立へと展開していきたい。①で得た炭素物質を気相あるいは液相で他の化学種と反応させ、加工による機能化を図る。その際に機能する「木材細胞構造を微小反応容器として用いるシステム」そのものを俯瞰し、炭素材料のみならず他の材料分野への応用展開に資する知見を得る。活性化したエッジを有機化合物で修飾することで、選択的吸着性を持たせ、分子篩能を付与する。またスルホン基やカルボキシル基の導入し、固体酸触媒としての機能付与の可能性を探る。吸着能評価に関しては、気体吸着装置、ガスクロマトグラフィなどを用いた測定を、研究協力者の山下里恵氏(静岡県工業技術センター・研究員)とともに実施する。分子篩や固体酸触媒化のための表面修飾は、研究協力者である岩田忠久博士(東京大学大学院農学生命科学研究科・准教授)の助言を得つつ進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
実験遂行に必要なガラス機器、消耗品、光学装置メンテナンス、研究成果発表のための出版等で支出の予定である。
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