研究課題/領域番号 |
24580240
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
斎藤 幸恵 東京大学, 農学生命科学研究科, 准教授 (30301120)
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キーワード | 化学加工 / カーボン材料 / 植物細胞壁 |
研究概要 |
植物細胞は、マイクロサイズ・ナノサイズの多段階層構造を持ち、それ自体がいずれも高度な構造である。マイクロサイズの反応場では、拡散や流動などに試験管スケールと違う機構が働き、化学反応そのものに本質的な影響を与えて、試験管スケールで実現しない反応が効率よく展開されることがある。植物の細胞構造がまさに数μm径の細管から成り、しかも不融化処理しないでも高温で形状を保つ。細胞がマイクロ反応場として機能することを示唆する事象が観察されており、解明できれば細胞から熱分解ガス反応場とした、新しい機能材料の創製方法の提案となる可能性がある。一方、反応容器としての細胞壁自体は高度なナノ複合体であり、構成成分の熱分解様式の違いが、細胞壁自体を特徴ある表面構造を持った機能性カーボンとなっている可能性がある。多段階に細胞構造を利用する、上記2つのテーマを中心に進め、それぞれ次の成果を得た。 ①細胞内腔で生成する高規則性炭素フィラメントのうち、炭化ケイ素結晶の晶癖を作用させて得られる円すい炭素に関して明らかにした。このフィラメントは木質細胞内腔で安定に再現性よく製造できる。このフィラメントの構造・特性を明らかにした。透過電子顕微鏡で観察される周期的反射から、炭素六角網平面から成る円錐が途切れることなくラセン状に連なった「旋回円すい」であることを明らかにした。これまでにこのフィラメントが環境応答して形状変化するインテリジェントカーボンに加工できることを見出しておりが、この現象を説明する一つの知見としても、また植物細胞が機能する炭素化機構を明らかにする上でも重要な知見と考えられる。 ②細胞壁:低温域での炭化形成について試料内部温度変化を詳細に調べることにより、細胞壁成分の選択的熱分解によって比表面積が増大したことを示唆する結果が得られ、機能性表面を持つ炭素材料の創製の可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していなかった発見により、大筋としてこのテーマに沿った展開であるものの、当初の計画を変更しつつ進めている。そのうえで、以下のような成果を挙げていることからおおむね順調に進展していると考えている。 課題①において、旋回円すいカーボンに関して、その旋回構造を解明したことにより、植物細胞壁の成分・サイズがどのように関与しているか、探るべき課題が明らかとなりつつある。課題②において、これまでほとんどが外部温度でのみとらえられていた、炭化の初期段階において、木質そのものの発熱も込んだ内部温度を基準として、比表面積、セルロース結晶化度変化などを捉えなおすことにより、選択的熱分解による植物細胞壁成分を活かした機能炭素材料化への足掛かりを得た。
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今後の研究の推進方策 |
本研究を進める中で当初予定していなかった発見により、いずれも本テーマの目的に沿うが、2つの異なるサブテーマとして並行して進めることとなった。 課題①に関しては、旋回円すい炭素フィラメントの生成機構に焦点を絞り、解明を進める。前述のように、特に植物細胞の炭素源としての機能、内腔サイズの効果について明らかにすることが重要である。これまで、熱分解反応を段階的に停止させ、生成物を走査および電子顕微鏡・電子線回折・X線回折・ラマンおよび赤外分光法によって構造解析する。これにより、細胞のサイズ・透気性、および温度・圧力制御法が、反応にどのような効果をもたらすかを、明らかにしてきたが、それらの結果を考察、解析する。この目的のために、生じる円すい炭素フィラメントそのものの構造について、加熱ステージを用いたラマン分光法等により明らかする。当初計画していなかったが、せん回円錐炭素の持つ、環境応答性のインテリジェント材料としての潜在可能性に関しては、これまでに研究例がなく、最終年にあたる本年度に追及することは重要と考える。
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