研究課題/領域番号 |
24580246
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
吉原 浩 島根大学, 総合理工学研究科(研究院), 准教授 (30210751)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 木材素材 / 合板 / 中密度繊維板 / 振動特性 / 破壊力学特性 / 静的曲げ特性 / せん断特性 / 評価法 |
研究概要 |
木質系複合材料の力学特性値については,たとえば合板や単板積層材料などではしばしば単純な複合則や積層理論によって予測され,積層構成や試験体形状の影響などについては十分な検討がなされていなかった。そこで本研究では,木質系複合材料の力学特性におよぼす積層構成や試験体形状の影響を検討し,その力学特性値を適切に評価できる試験法および試験条件の確立を目指すこととした。本年度は以下の5点について市販の木材素材,合板および中密度繊維板を使用して検討し,十分な成果を得ることができた。 (1) 木材素材の開口モードおよび面内せん断モードが混合する状態におけるき裂進展開始時および進展時の破壊じん性値の変化について検討した。その結果,き裂の進展によるモード比の変化を直接測定することができた。 (2) さまざまな積層構成および試験体形状を持つ合板を使用し,合板の厚さ方向に振動を励起することで曲げヤング率および面外せん断弾性係数を測定した。その結果,これらの弾性定数を適切に測定するためには試験体の長さ/厚さ比を十分に大きくする必要があることがわかった。 (3) さまざまな積層構成および試験体形状を持つ合板を使用し,合板の長さおよび幅方向に非対称4点曲げ負荷することで面内せん断弾性係数を測定した。その結果,面内せん断弾性定数を適切に測定するためには試験体のスパン/はりせい比を十分に小さくする必要があることがわかった。 (4) 中密度繊維板の3点曲げおよび非対称4点曲げショートビームシア試験を行い,層間せん断強さを測定した。その結果,非対称4点曲げ試験の方が適切に層間せん断強さを得ることができることがわかった。 (5) 木材素材,合板および中密度繊維板をさまざまなスパン/はりせい比で静的曲げ試験し,ヤング率を測定した。その結果,ISOやJISに規格化された方法では適切にヤング率を得ることができないことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は市販の合板,パーティクルボード,中密度繊維板および単板積層材を使用し,試験体形状や試験方法を様々に変えて振動試験,静的負荷試験および破壊じん性試験などの力学試験を行うことでこれらの材料の力学特性評価を実施することを予定していた。また,複合則や積層理論などの単純な理論解析だけではなく,有限要素法などの数値解析を併用して木質系複合材料の力学特性を予測し,得られた予測と実際の試験から得られた結果を比較・検討から適切に力学特性値が評価できる試験法および試験条件を決定することを目指した。その結果, (1) 合板の弾性定数(ヤング率およびせん断弾性係数)の測定値については,その積層構成および試験体形状の影響が顕著に現れることがわかっただけではなく,弾性定数を適切に評価できる試験条件を決定することができたと考えている。 (2) 木材素材の曲げヤング率の評価方法として規格化されているJIS Z2101-2009およびISO 3349-1975では,木材素材のみならず木質系複合材料の曲げヤング率を適切に評価することが困難であり,その原因が2点のたわみ測定によって測定誤差が強調されるにあることを示すことができた。 (3) 中密度繊維板の層間せん断強さを単板積層材や炭素繊維強化プラスチックの規格に標準化されている中央集中荷重によるショートビームシア試験で測定したが,適切に層間せん断強さを得ることができるスパン/はりせい比の範囲が著しく制限されることがわかった。この方法に比べ,以前提案した非対称4点曲げ試験ではより広いスパン/はりせい比の範囲で適切に層間せん断強さを評価できることを示すことができた。 (4) 木材素材の混合モード破壊じん性試験では,従来のはり理論から逸脱した挙動を示すことや,き裂の進展によって混合モード比が変化することを実験的に示すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
木質系複合材料の力学特性をより精緻に解明するためには,原材料として使用されている木材素材および接着剤などの弾性特性や強度特性値を把握し,これらの原材料を使用して製造された複合材料の力学特性を評価することが不可欠である。したがって,今後は原材料の力学特性をあらかじめ測定した後に木質系複合材料を製造し,原材料から予測される複合材料の弾性特性および強度特性と実際に製造された複合材料の弾性特性および強度特性を比較する。そのときに生じる差異について,複合則や積層理論などの単純な理論解析のみならず,有限要素法解析を併用して解明することを予定している。 また,木質系複合材料を実用的に使用する場合,単純な応力状態におかれることはほとんどなく,応力が複合した状態で使用されることがほとんどである。そこで,市販および上述した方法で製造した木質系複合材料に様々な応力成分を複合して発生させ,複合応力状態における弾性および強度特性評価法について検討する。具体的な試験方法として,繊維傾斜角をもつ試験体の引張試験,圧縮試験,曲げ試験および切欠きばりの非対称4点曲げ試験と,ねじりモーメントと引張力およびねじりモーメントと圧縮力を同時に負荷する試験を行う。この場合も複合則・積層理論および有限要素法による解析を行い,実際の実験結果と比較・検討を行う。 以上,今年度の成果と併せ,木質系複合材料の力学特性評価法の確立を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
原材料から複合材料を製造して試験するという計画は,当初今年度に実施する予定であったが,木質系複合材料の力学特性評価に関する評価方法の検討例があまり多くなかったため,今年度は市販の木材素材と木質系複合材料を使用し,多数の評価項目を掲げて検討した。したがって,上述したような木質系複合材料の製造に必要な原材料の費用,製造された木質系複合材料の力学特性評価に必要な消耗品,謝金および論文投稿経費等を翌年度分に請求することとなった。 次年度では,まず木材素材の弾性特性および強度特性を明らかにした後,これらの木材素材を使用して合板,単板積層材および中密度繊維板などの木質系複合材料を製造する。以上は前年度に生じた未使用額に相当する部分に相当する。複合材料の製造に際しては,同樹種および異樹種の複合化や使用する接着剤および積層構成などの製造条件を様々に変える予定である。また,製造された木質系複合材料を用いて単一応力状態(曲げ,引張,圧縮およびせん断など)における弾性特性および強度特性を評価する。まず原材料の力学特性から複合材料の力学特性を複合則や積層理論および有限要素法解析から予測して実際に製造された複合材料の力学特性と比較し,差異の生じる原因について検討する。 一連の試験はインストロン型万能試験機(現有)およびねじり試験装置(主要設備)を使用して実施する。荷重点の変位は変位計で,試験体に生じるひずみはひずみゲージを用いて測定し,荷重,変位およびひずみのデータはデータロガー(現有)に記録する。
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